観光客が見向きもしない「新世界」の激渋映画館と大衆演劇場(2007年)

何も通天閣に登って串カツを食べることばかりが新世界観光ではない。この地域をせっかく訪れたならば、この町並みそのものをじっくり観察しなければ、新世界の何たるかを知る事にはならない。

明治・大正・昭和・平成、世代を超えて続く娯楽の殿堂としての「新世界」の姿は、時代の流れの中で隅に追いやられようとも、この地で立派に根を下ろして生きている。

さて、新世界と言えば「スマートボール場」である。昔懐かしい手動のスマートボール台。昔の夜店の屋台やひなびた温泉地のゲームコーナーにひっそり置かれているのをたまに見かけるくらいで、パチンコ店と同じ形態の「スマートボール専門店」は数えるほどしか存在しない。

新世界の娯楽と言えば、大衆演劇と映画だ。新世界界隈の映画館は入場料も一般のものより安く、この場所だけに限れば未だに映画は庶民の娯楽の王道のようである。そして新世界においては、映画は映画でも成人映画の部類も多い。

「新世界朝日劇場」は、大衆演劇場として明治時代の「新世界」誕生からおよそ100年近い歴史を持つ劇場だ。

その朝日劇場に隣接するのは成人映画専門「新世界日活」。わざわざカップルシート席なんてのも用意されているが、どのような使われ方がされているのかは中に入ってみないと分かりませんね。

朝日劇場の少し向こうには、歴史を漂わせるモダン建築が強烈にインパクトを与える「新世界国際劇場」。相当古びた建物だが、それもそのはず。昭和5(1930)年に「南陽演舞場」として建てられたものだ。新世界エリアの大衆文化の歴史を雄弁に物語る生き証人である。

国際劇場の入口には、なんとも味のある手描きの映画看板がびっしり覆っている。新世界は何でも庶民価格。映画館だって、最近流行りの小洒落たシネコンに比べれば明らかに時代遅れなものの、たいていの映画館は千円以内で入れる。

この映画館は今なお、新世界を訪れる男達のリビドーを発散させる場として活躍している。上映されている映画の内容を真剣にチェックするおじさん達の熱い視線の先にあるものは…放送コードに引っかかりそうなのでモザイクかけときますね。

全国的にもかなり珍しくなった手書きの映画看板がここでは現役。ここは1階部分は普通の映画が上映されているのだが、別個で「地下劇場」があり、そこでは成人映画が常時上映されている。値段は800円。

地下の成人映画館はソッチの気がある紳士の溜まり場として一部にはよく知られている。中には女装した爺さんとかもいるらしい。一歩足を踏み入れるとそこは魑魅魍魎の世界であろう。勇気のある方はお試しください。

そのすぐ隣には「大衆演劇浪速クラブ」。昭和31(1955)年創業、日本最古の大衆演劇場なのだ。ホームページには「日本一粗末な建物で日本一安い入場料で」と自虐を込めて書かれているが、自慢の役者を揃えて営業を続けている筋金入りの劇場だ。2011年頃に建物がリニューアルされ、今は外観が変わっている。

さっきの成人映画もだが、場所が場所だけに、子供の教育にはよろしくないのだが、すぐ隣が天王寺動物園なので、遠足にやってくるお子様もバンバン新世界を通りがかるのだ。なんとも複雑な空間であるが、大阪に生まれ育ったからにはそんな事気にしていたら生きていけないのである。

新世界国際劇場の成人映画ポスターを凝視する飢えたオッサンの真横を、制服を着た小学生の子が通り過ぎていく。この女の子は将来どう育っていくのだろうか。

そんなこと知らんがな。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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