日本最後の現役遊郭「飛田新地」をざっくり説明する(2016年版)

大阪市西成区

日本国には「売春防止法」(以下・売防法)という法律があり、建前ではそのような行為は一切禁じられている。それ故に法律の網をかわすようにそうした特殊なサービスを行う業者があるが、大抵は特定の地域に集中している。

それが売防法施行前から「遊郭」や「赤線地帯」として開かれていた色街を前身とした地域に多い事はこの国のおいては常々ありがちなパターンである。代表的なものを挙げれば東京では有名なのが「吉原遊郭」、今で言う台東区千束四丁目にあたるが、一方で大阪では西成区山王三丁目の「飛田新地」がそうである。

大阪市西成区 飛田新地

最寄り駅は地下鉄御堂筋線または堺筋線動物園前駅。日本最大のドヤ街である「釜ヶ崎」の東隣に広がり、大方は大正時代に遊郭として開かれた当時の歴史的建造物が数多く立ち並ぶ、日本国内でも稀に見る街並みであるが、場所柄だけに長らくタブー視され続けてきた。

誕生から100年の旧遊郭、今なお日本唯一の現役の色街

大阪市西成区 飛田新地

飛田新地の成り立ちは現在から遡る事約百年前の1916年である。「ミナミの大火」で焼失した難波新地乙部遊郭がその前身で、焼け出された業者がまるごと当地に移転してきたのが始まり。当時は大阪市外、東成郡天王寺村の原っぱや畑が広がっていただけ場所に百軒以上もの妓楼が造成され「飛田遊郭」が誕生する。

阿部定事件―愛と性の果てに (新風舎文庫)

ちなみに飛田遊郭時代の御園楼で働いていた事もあるのが、かの阿部定である。

「料亭」で「接待」してもらう場所です

大阪市西成区 飛田新地

飛田遊郭は戦時中に一部空襲で焼失したものの、戦後には赤線地帯として勃興し、昭和33(1958)年の売防法施行後は「アルサロ」と呼ばれる飲食店が流行した時期もあったが、現在まで続く料亭街という体裁に落ち着いている。


旧遊郭地の大部分は空襲による戦災を免れている為に、大正時代に建てられた妓楼がそのまま使われている所が多い。街並み的にはもっと評価されても良い場所なのだが、いかんせん現在も「料理組合」を標榜しながら「お遊び」ができる場所になっている事は周知の事実。その原則を頭に叩き込まず空気読まずで来てしまうと「廓」の中の人々に決して良い顔をされる事はない。

日も暮れると各々開け放たれた玄関口の先がライトに照らされているある意味幻想的でもあり、ある意味生々しい光景を楽しめるのは専ら殿方ばかり。もし女性が通りがかって興味本位で覗き込んだりしようものなら直ちに彼女らから容赦無い罵声が飛ぶ。

大阪市西成区 飛田新地

今も約170軒もの「料亭」が山王三丁目の一部を占めるこの一画に密集しており、5つある通りにそれぞれ並ぶ料亭はいずれも「年齢層」が異なっていて、「青春通り」「妖怪通り」と通称が付けられている。つまりそれだけ受け皿も広いのである。

大阪市西成区 飛田新地

営業時間は昼前からぽつぽつ開き始める店はあるものの、お客の書き入れ時はやはり午後9時~10時あたり。一番人気の料亭が連なる青春通りあたりは遊客でごった返し異様な雰囲気に包まれる。

この街を散策するなら午前中に済ませましょう

大阪市西成区 飛田新地

この「廓」が開かれる時間帯は、おおよそ昼過ぎからぼちぼちといったところか。健全な遊郭跡歩きとしてこの界隈を散策するのであれば「午前中」をお勧めしたい。それ以後は男の場合は遊客と思われやり手ババアの黄色い声が掛かるか、女の場合はホステスの姉さんから罵声が飛ぶかのどちらかである。

「料亭」営業中の写真撮影は厳禁

大阪市西成区 飛田新地

そして当然ながら「料亭」営業中の写真撮影もアウトである。もしカメラを向けようものなら昔ならヤクザが飛んできて半殺しにされてカメラも壊されると根も葉もない噂が飛び交っていた程だが、タブーが随分薄れてしまった今となってはさすがにそこまで酷い目には合わないだろうが、ある意味「命を削って」働いている当事者に無礼のないように心がけたい。

(※上記記載写真は後述する唯一飛田新地内を撮影可能な夏祭り開催日のもので、店の特定を避ける為に画像処理を施しています)

不二家ポップキャンディが日本一消費される場所、飛田新地

大阪市西成区 飛田新地

男であればこの場所を通り掛かるとお姉さんや遣り手婆の黄色い声が次から次へとひっきりなしに掛かる。反面、「ひと仕事」終えて帰ろうとする客には目印となる不二家のポップキャンディが手渡され、これを持っていると客引きの声が掛からなくなるという仕組み。新地内にあるコインパーキングに食べさしのポップキャンディが落ちている光景は、つまりそういう意味なのだ。

不二家 ポップキャンディ袋 21本×6袋

一説には不二家ポップキャンディが日本一消費される場所は飛田新地であるという噂話もあるくらいだ。

「飛田があるから生きてこられた」女性達の存在

大阪市西成区 飛田新地

上辺だけの正義感に振り回された挙句この街の光景を「女性の人権が云々」と顔をしかめて非難する人々ももちろん居る。しかし当事者達はあくまで経済原理に乗って自由意志で働いているだけに過ぎない。遊郭時代の「借金のカタに働かされている」という悲しく後ろめたい話も聞く事はない。

まだまだ女性の社会的地位の不利さから生活に困った挙句、この場所があったから生き延びる事が出来たという女性の声もある。一方的な物の見方だけでは片付けられない世界があるのだ。

国指定重要文化財、唯一本来の意味の料亭「鯛よし百番」へ

大阪市西成区 飛田新地

かつては旧遊郭西側に位置する「大門」から手前に一番から百番まで順番に番号がふられ、奥に行けば行くほど店の質も格上になっていったそうで、旧遊郭地の端っこにある「鯛よし百番」は当時最も格上であった大正時代の妓楼の建物をそのまま残して本来の「料亭」として経営されていて、飛田遊郭の風情を味わいながら鍋をつついたりできる。

大阪市西成区 飛田新地

100年という時の重みを抱えながらも今なお豪華絢爛ぶりを見せる、日光東照宮をオマージュしたゴッテゴテの内装は一生に一度の見ものである。「鯛よし百番」は遊郭建築では日本でも珍しい「国指定重要文化財」でもあるのだ。

鯛よし百番は2012年に来店しております。詳しくは大阪DEEP案内のレポートをどうぞ。
飛田新地の料亭「鯛よし百番」に行ってきました (全2ページ)

ネット社会で薄れる「飛田新地」のタブー

大阪市西成区 飛田新地

インターネットが普及した今の社会では、かつては秘密のベールに包まれていた飛田新地の存在がどんどん露わになり、橋下徹大阪市長もかつて当地の顧問弁護士を勤めていたという話題が出たり、地元西成出身のラッパー「SHINGO☆西成」が歌う飛田新地ソングも登場、そして今ではとうとうNHK総合テレビの取材(探偵バクモン/2015年9月23日放送分)まで入ってしまう時代に突入している。

その一方で増加傾向にある外国人観光客の物見遊山も増え、以前は「外国人お断り」だった飛田新地の料亭も徐々に外国人の遊客をも受け入れる方向にシフトしている。

大阪市西成区 飛田新地

戦後の1958年、売防法施行後から半世紀以上過ぎた現在、法的にはかなりきわどいラインを綱渡りで細々と生きながらえてきた「最後の現役遊郭」である飛田新地の栄華はいつまで健在であろうか…

写真NGな飛田新地で年に2日だけ撮影可能な日がある

大阪市西成区 飛田新地

飛田新地の中は通常写真撮影はご法度であるのは言うまでもない。しかし年に2日だけ好きなだけカメラを出して撮影しまくっても誰にも怒られない日がある。7月24日、25日、大阪の夏の風物詩である「天神祭」の日に合わせた地元の天神ノ森天満宮の夏祭り、子供太鼓奉納の開催日である。

この時ばかりは飛田新地を含めた地域住民が一斉にだんじりを曳いては街中を練り歩く。勿論新地の中の「料亭」も一軒一軒丁寧に回るのだ。

大阪市西成区 飛田新地

神輿の上に乗ったまだ年端も行かない子供達がこの特殊な街を見て何を思っているのか、余所者はつい心配しそうにもなるのだが、その辺は非常にあっさりしている。子供達は馴れた表情で各料亭の玄関先に伺い「大阪締め」を執り行う。たまたま「そういう仕事」をしている人々が集まっているだけで、別にそれ以外は西成区にある普通の下町なのだという感覚を持って頂けると近いのではないだろうか。

そして子供太鼓のだんじりの後ろにズルズルとカメラを手にしたギャラリー達も連なる。営業中の料亭の玄関先にカメラのレンズを向けなければまず怒られる事はない。この街への好奇心をこじらせたならば、一度この日に飛田新地を訪れてみてはどうか。

飛田新地夏祭りの様子は以下の記事で詳しく紹介しております。
飛田新地の撮影が一年にたった2日間だけ許されるという「夏祭り」とはどのようなものなのか

西成のど真ん中で高級和牛をお安く喰らう!「板前焼肉一斗」

大阪市西成区 飛田新地

大阪及び関西と言えば牛肉食文化がお盛んな地域である。そして飛田遊郭の流れを汲むこの現役色街の外れ、天下茶屋ロータリー跡交差点角に旨い和牛を食わせてくれる「板前焼肉一斗 天下茶屋本店」が店を構えている。

大阪市西成区 飛田新地

大阪市西成区 飛田新地

店の表の「共食いキャラ」も気になるところだが、だいたい一人5千円も出せば、東京ではン万円は出さないと食べられない高級和牛がたらふく食える。贅沢に和牛寿司をわさび醤油で食べるも良し、焼肉で食うも良し。大阪の牛肉食文化の真髄がまさかの西成のど真ん中で楽しめてしまう。

大阪市西成区 飛田新地

締めには南河内のソウルフード「かすうどん」も頂ける板前焼肉一斗。恐らく飛田新地のお姉さんも御用達なのかも知れないが、飛田新地に繰り出す前の殿方様ご一同でもたいそう繁盛している。


飛田新地マップ

タイトルとURLをコピーしました