【西宮市】隔絶された山中の住宅街に繋がる斜行エレベーター!「西宮名塩駅」の異世界ぶりを見た

広大な関東平野に位置する東京および首都圏の都市とは違い、街から海と山の距離が滅法近いのが京阪神の街の特徴で、大阪市内から電車で片道30分もしないうちに山を越えて奈良に入ったりするように、狭い大阪平野や京都盆地、はたまた六甲山地と大阪湾の間に窮屈に伸びる神戸市街地といった都市の姿はこの地方独特のものである。で、これまた大阪駅から電車で30分もしないうちに山の中に入ってしまうのが「福知山線」もといJR宝塚線。

大阪駅から尼崎駅で分岐し、伊丹・川西・宝塚市を経て三田や篠山といった丹波の山国を結び京都府福知山市に連なるこの路線、忘れもしない2005年の「福知山線脱線事故」の忌々しい記憶が今なお残る路線であるが、新三田あたりまでは充分大阪への通勤圏であり多くの利用者がいる。しかし三田の手前に一部「西宮市」に属する地域が飛び地のように存在しており不可思議に思っていた。宝塚駅からトンネルで山越えした先にある「西宮名塩」(にしのみやなじお)という駅である。

西宮市北部の隔絶された山中にあるニュータウン駅「西宮名塩」

大阪・神戸両市に挟まれ、隣のガラの悪い工業都市・尼崎市の人口減少を尻目にとうとう人口を追い抜かしてしまった人気の住宅都市「兵庫県西宮市」、実は南北に非常に長い市域を持っており、一般的によく知られる西宮市街地を含めた南部地域から大きく離れた山中の北部地域と二分している。その市内北部地域に唯一存在する鉄道駅がこちら西宮名塩なのである。

西宮名塩駅へは大阪駅からJR宝塚線の快速で最速29分、逆に同じ西宮市内にあるJR西宮駅からは尼崎経由で約40分というアクセスで、なぜここが西宮市なのか意味不明な地域なのだが、西宮市北部地域は有馬郡塩瀬村、山口村という二つの村が戦後の昭和26(1951)年に西宮市に編入され今に至っている。塩瀬村というのも元々あった名塩村と生瀬村が合併したもので、今でも駅名などに残っている。

駅の構内には…ああ、ありましたね、教育意識の高い西宮市名物の白ポストが。「青少年に見せてよくない雑誌類」、つまり有害図書を捨てるためのポストが西宮市内には計16ヶ所に設置されている。でもこの白ポスト、全国的に普及しているものの、発祥は隣の尼崎市らしいんですよね、意外にも。

駅の改札を出るとペデストリアンデッキに直結しており、駅前商業ビル「エコールなじお」といった建物と直結しているが、駅前ロータリーに続く車道部分とは完全に分離されていて歩行者には安全安心仕様になっているのがいかにもニュータウン的な特徴である。また西宮名塩駅自体もニュータウン建設に合わせて昭和61(1986)年に新設された歴史の浅い駅である。

円形のペデストリアンデッキの中央部に車やバスが乗り入れるロータリーが見える。とりあえず見渡した限り駅前一等地にパチンコ屋やら何やら俗っぽい店舗がどこにも入り込む余地が見当たらない。良い言い方をすれば「品がある」のだろうが、悪く受け取れば無菌空間のようで、下品な大阪市内に慣れてしまっている身としてはどうも居心地の悪さを感じる。

そして駅前に唯一あるスーパーがエコールなじお内にある「阪急オアシス」だけというのもお上品路線の西宮市北部ならではのものでしょうか。駅前にある施設と言えばはここと向かいのマンションと立体駐車場、あとは西宮市北部図書館くらいだ。

ちなみに駅前にある飲食施設らしいものも全て「エコールなじお」4階のフードコートに集約されているが、営業中なのは「マクドナルド」だけで他の店舗はことごとく撤退してしまっている。地元の高齢者や行き場のないDQN風学生がマクドのハンバーガーやポテトを摘みながら陰気臭い感じでたむろしていて陰鬱極まりない。これならまだリニューアル前のピエリ守山のフードコートの方がマシである。

それ以上に西宮名塩駅前において注目すべきは駅前一帯がまるごと山の中に作られている点がありありと分かるところである。同じ関西にも生駒だとか神戸の鈴蘭台だとか山の中のニュータウン的な街は数あれど、こんなに極端な風景にはお目に掛かれない。

武庫川支流の名塩川の谷あいに、鉄道や道路の高架、マンションや商業施設がギリギリ建てられていて、なんとも立体的な街並みが出来上がっている。さぞかしバブル期のノリでゴリゴリ開発しちゃったのだろうな。

駅前からニュータウンへの唯一の動線となるペデストリアンデッキの上から毎日見られる絶景ですが高所恐怖症の人はこの時点で住めない街なのではないでしょうか。

ネーミングが90年代的な「創造の丘ナシオン」の斜行エレベーター

西宮名塩駅前から連なるペデストリアンデッキを辿った先に見えるゴツい佇まいの「斜行エレベーター」。あれがこの街のシンボル的存在と言っても良い。肝心のニュータウンはあれを登った先の山の上にあるのだ。(訪問時、左側の斜行エレベーターが工事中で足場が建てられていたため見栄えが悪くなっています)

山の中腹部からびっしりと並んでいる住宅群もまた見た目に異様である。この上の一帯を「西宮名塩ニュータウン」と称するようだが、名塩地区では別にここだけがニュータウンではなく、名塩南台だとか清瀬台、名塩山荘、名塩ガーデン、名塩平成台、名塩さくら台といった、あちこちの山を切り開いて作られた小規模ニュータウンが点在している。

西宮名塩駅からペデストリアンデッキ経由で徒歩2分くらいの所に斜行エレベーターの乗り場があるが、何やらこちらもコンクリートゴッテゴテの打ちっぱなしでバブル感の余韻をひしひしと感じられるデザインに呆然としてしまう。ニュータウンの愛称が「創造の丘ナシオン」だもんな。バブリーな90年代のセンスがプンプン漂っている。名塩の地名は「なじお」と濁るが、それでは格好が付かないからか、ニュータウンの名前は「ナシオン」。

このニュータウンにある集合住宅や斜行エレベーターなどは建築家・遠藤剛生(安藤忠雄と同い年)の設計のもと作られている。関西では吹田市の「千里山ロイヤルマンション」を手掛けた人物として名高いが、関東でも最近建て直された東京都北区の赤羽台団地改め「ヌーヴェル赤羽台」なんかも手掛けている。

二台ある斜行エレベーターは麓の西宮名塩駅前とニュータウンの間を全長150メートル、片道約2分で結ぶ。山の上のニュータウンは駅開業から5年後の1991年に街開きしており、その時期にこの斜行エレベーターも整備されている。街開きから四半世紀が過ぎているが、住民には高齢者の姿が多い。

もちろん斜行エレベーターではなく階段を使って行き来する事も出来るが、その高低差は60メートル、足腰に自信があっても通勤通学に毎日この階段を使うのは覚悟が要る。そもそも高齢者も多いし、斜行エレベーターはまさに西宮名塩ニュータウン住民の生命線としか言いようがない。

西のナシオン、東のコモアしおつ

斜行エレベーターからの眺めもなかなか「時代遅れな近未来的情景」でそれなりに絵になるものだ。これを見て思い出した。山梨県上野原市にある「コモアしおつ」の斜行エレベーターを。まさに隔絶された駅とニュータウンとその両者を結ぶ唯一の動線が斜行エレベーターという、あらゆる要素が瓜二つである。

もっとも、大阪から30分で来れる西宮名塩とは違い「コモアしおつ」は中央線で新宿から片道1時間以上掛かる超絶秘境限界ニュータウンで、やはり時期的にもこちら「想像の丘ナシオン」と同じ1991年に街開きしている。そこから通うサラリーマンは「山梨都民」という稀有でエクストリームな称号を受けているし、斜行エレベーターもあっちの方が長く、全長200メートル、高低差100メートルもある。

そんなコモアしおつはジブリ作品「千と千尋の神隠し」のシーンに出る事で有名らしいのだが、ここも何かの映画かドラマのロケ地になっていないか…そんな事を想像していたら…斜行エレベーター前の掲示板にこんなものが…

幼な子われらに生まれ Blu-ray

「幼な子われらに生まれ」(原作・重松清)という映画の告知ポスター、そこにはこの斜行エレベーターが…ええ、ええ。ロケに使われていたようですね。浅野忠信、田中麗奈主演…今度チェックしてみましょうかね。

そして頂上に辿り着いた斜行エレベーターを降りるとそこには神々が住まう天上界…ではなく、山奥にマイホームを買っちゃった人々の住まうニュータウンが広がっているのである。この先もツッコミどころが多いのだが、長くなりそうなので続きは次回で。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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