日本最大のドヤ街、大阪市西成区の釜ヶ崎(あいりん地区)。この場所に全国各地から行き場を失くした人々が引き寄せられるように集い、僅か500メートル四方の土地を中心に寄り添いながら暮らしている。日雇い労働や空き缶・ダンボール拾いなどでなけなしの小銭を得て細々と暮らすホームレスや労働者、生活保護を貰いながら暮らす高齢者が大勢いるこの街にある「自動販売機」はその辺の街中にあるそれとは全く趣が異なる。今回はそんな釜ヶ崎の自販機事情についてレポートする。
ドヤ街釜ヶ崎においてはスターバックスコーヒーのようなお洒落ぶった喫茶店はどこにも見当たらない。個人経営の小さな喫茶店があったとしても、コーヒー一杯300円台が通常価格とかなりお安めの設定だが、それでも「最底辺」を生きるドヤの住民にとっては高級品。では彼らがどこでコーヒーブレイクを楽しむかというと、こうした激安自販機コーナーだ。
釜ヶ崎の街を歩くと自動販売機が尋常なく多い事に目がつくはずだ。その辺の繁華街で見かけるそれとは密度も全然違う。そしてこの場所で自販機ドリンクは一本130円などでは到底売れる訳がない。「一本50円から」がデフォルトの価格設定、それが当たり前の世界だ。
「晴れたら街中オープンカフェ」それが西成スタイル
この自販機のあまりの多さ、地元出身ラッパーSHINGO☆西成も「晴れたら街中オープンカフェ」と歌うほどのもの。3畳一間ドヤ暮らしのオッチャン達にとっては街全体が庭のようなもの、言い換えれば憩いの空間でもある。
そして自販機と同じくらいあちこちで見かける「路上で酒盛り」のオッチャン軍団も西成釜ヶ崎ではごく当たり前の日常風景である。酔っ払ってその辺の露天商に喧嘩を売るジジイが杖を振り回しながら大声で喚く。「おんどりゃ西成なめとんちゃうどワレェ!!」…繰り返しますが西成の日常風景です。
激安自販機も数が多ければメーカーの種類も豊富であるが、やはり最も頻繁に目にするのは地元大阪を代表する飲料メーカー「サンガリア」製品である。この自販機はごく一部がUCC製品になっている以外はほぼサンガリアオンリー。缶飲料は50円または60円である。
サンガリアの「ひやしあめ/あめゆ」は大阪ではポピュラーな飲料だしみんな知っているが、中には見た事もない謎のメーカーの製品もちょいちょい売られている。恐らく業務スーパーあたりで一本30円くらいで売られていそうな感じがする。
あいりん労働福祉センターがある市営萩之茶屋第2住宅の下にある喫茶店も激安自販機の人気ぶりに押されたのか何なのか知らんが休業状態。すっかり自販機コーナーに。ここは特に日雇い労働者・ホームレスの溜まり場密度が高い一画で、廃棄弁当が違法に売られていたりする特濃貧民ゾーン。価格のうるささは全国一。
これも西成釜ヶ崎ではよく見かける土着チェーン系弁当屋「まんぷく」。各種弁当惣菜類を激安販売していたりイートインスペースまであって定食類が300円から食える店だが、そこの軒先にも何台も激安自販機が設置されている。
釜ヶ崎の激安自販機、やはり缶・ペットボトル飲料自販機が主流だが、ここの店先にはカップベンダーが設置されている。ネスレ・UCCのメーカー名が表記されたコーヒー各種、その他ココア、コーンポタージュ、あずきオーレ、巨峰、黒酢パイン、ラムネソーダとあるが全て50円で購入できる。「すべてがお買得!!」と激安っぷりをアピール。
関西地方ではサンガリアと並んで比較的良く見る廉価な飲料メーカー「チェリオ」の自販機も一応あるにはある。しかしここは1本100円からという料金設定。これは釜ヶ崎においては高級品扱いである。単に不人気なのか最近置いたばかりのものなのか、自販機のボディがやけに綺麗だ。
西成にもちゃっかり進出している10円自販機大阪地卵
それから目につきやすいのが「またおいでや 50円」のステッカーが貼られたこちらの自販機。これは福島区の大阪中央卸売市場前にある10円自販機で有名になったあの「大阪地卵」のものだ。同社の本拠地には多数の激安自販機が設置されていて中にはド派手なイルミネーションを放つ自販機もあって、やはり「いちびり」精神が半端ない。
で、各商品のボタンの前にしょうもないオヤジギャグ丸出しのキャッチコピー付きの値札が置いてある気の利きよう。「私のことはHOTいて!」「ホットけない安さ!」目線入りで某○のもんた氏の写真が使われていますけども。
大阪地卵によると同社の激安自販機は大阪市内に約200台設置されているそうだが、そのうちのかなりの割合が釜ヶ崎周辺にあるものと見られる。そしてここにも10円で売られている商品が…当然全て売り切れ。
ドヤ街住人の命の水!アルコール自販機も勿論激安!
釜ヶ崎にはアルコール類専門の自販機コーナーが多数存在し、ドヤ街暮らしのしがない住民の「命の水」を激安価格で供給するヒールスポットとして活用されている。特に最大手がこちら「足立酒店」だ。釜ヶ崎の要所要所にここの店舗が配置されている。
大阪最底辺の街・西成で、東京最底辺の街・足立の名前を冠する少なからぬ位因縁を感じる(単に経営者の苗字か?)だが、立ち呑み酒場になっている「足立酒店総本店」が太子交差点付近にある他、釜ヶ崎に多数ある足立酒店の店舗は見ての通りほぼ自販機コーナーしかない。ワンカップ酒はともかく、2リットルの紙パック焼酎まで自販機で買えるのだから色んな意味でヤバイ。
ドヤ街住民向けにワンカップ酒を多数揃えているのが特徴的だが、ミニサイズが1本100円、通常サイズが130~240円という価格帯で売られている。そう言えば少し前にネットで騒ぎになった1本50円の「アウトレット酒」がないものか探し回ったが、嗅覚が乏しいのか見つけられずじまいだった。
最大手の足立酒店以外にもこのような自販機コーナーが釜ヶ崎各所に腐る程あり、朝っぱらから道端で呑み散らかしては寝転がるアル中オヤジがそこら中にいる始末。まさに「人生の終着地点」と呼ぶに相応しい末期的な光景が見られる街、それが西成釜ヶ崎なのである。
釜ヶ崎の酒自販機コーナーでホームレスに絡まれる
そんな釜ヶ崎でも度々越冬闘争や炊き出しイベントが行われる「聖地」三角公園に面した一角。ここいらも当然ながら居酒屋ばっかりなんですが、但馬屋酒店の隣にやはり「足立酒店」の自販機コーナーがある。
ここで一杯引っ掛けて景気付けようと思った訳だが、急にホームレス風のオッチャンが乱入して絡まれる事態に。我々が部外者であると分かると何の遠慮もなくワンカップ酒とおつまみを奢れと迫ってきた。
生まれ故郷は茨城だか東日本のどこかだと自称する、恐らく50代前後の年齢とみられる男性。東京山谷をはじめ全国各地の現場を渡り歩いてきたといい、「ここが一番居心地がいい」と西成で沈没している。ワンカップ酒片手に始めは上機嫌だったが酔いが回ると急激にダウナー状態になり「俺なんかいつ死んでもおかしくねぇんだ…正月も越せねぇだろうし、誰も悲しまないだろうしよぉ」…云々。
西成区を中心に毎年のように親族不明で引き取り手のない「行旅死亡人」が発生し、無縁仏として誰にも知られず葬られる運命にある。心当たりのある親族の方、このページをご覧になっていたら西成に行ってあげてください。