大阪ベイエリア労働者の足・大阪市営渡船「甚兵衛渡船場」

大阪ベイエリア住民の足として未だに活用されている市営渡船は現在8ヶ所あり、そのうち7ヶ所が大正区に存在している。今回はそのうちの1ヶ所である「甚兵衛渡船場」を紹介しようと思う。

この甚兵衛渡船場は大正区泉尾七丁目と港区福崎一丁目の間を流れる尻無川を往来し、大型船舶の通行を理由に高さのある橋しか架けられず不便を強いられている歩行者や自転車利用者向けに昔からずっと無料で渡船を行っている場所。大正区側から来る場合、市バスで大正駅から泉尾四丁目バス停まで乗ると近いが、徒歩ではあまり来るような場所でもない。

大阪市内8ヶ所の市営渡船場の中で唯一地名ではない「甚兵衛」という人名が付けられたその由来は江戸時代にまで遡る。甚兵衛という人物が渡船場のそばで茶店をやっていて、名物に出されていたハマグリが美味かった事から「蛤小屋」と呼ばれていたとか、そんなとてつもない昔の話が出てくる。

大昔、大阪市内にある渡船場は民営だったが、それが明治末期頃から市営に変わって、地域の交通として無くてはならないものとして、未だに大阪市交通局ではなく大阪市建設局(木津川渡船場のみ港湾局)の管轄で事業が続けられている。つまり渡船は橋と同じ扱いなのである。同じ甚兵衛繋がりで、港区の天保山にある海遊館で泳いでいるジンベエザメの絵でも描いているのか探したが、見つからなかった。

大正区側の渡船乗り場となる尻無川の岸壁に出る。川向こうの港区側には弁天町「オーク200」の超高層ビル群や隣接するタワマンなんかも見えるが、港区福崎側は完全に工業地帯でしかないし、こちらの大正区泉尾側も市営住宅となっている高層団地が乱立していて、まあガラの悪さではどうしようもない地域である。

甚兵衛渡船場は8つある市営渡船場のうち最も利用者が多く運行時刻表も15分に1本ベース、朝夕の時間帯は随時運行を実施し2つの船が交互に行き来する。通勤通学利用者がそれだけ多い事を伺わせるが、歩行者や自転車利用者が尻無川を渡るためには上流600メートルの位置にある国道43号線「尻無川橋」まで迂回する必要があり、この渡船場が相当の利便性を確保している事がよくわかる。

甚兵衛渡船場の歴史を記すプレートは新たに設置されたものだ。最近は市営渡船の物珍しさからわざわざこんな場所にまでやってきては渡船巡りをする観光客も増えているらしい。

蛤小屋どころかバラック小屋の一つも目にしないコンクリートの岸壁を眺めながら暫し渡船の運行時間を待つ。5分前くらいになるとどっさりと客が押し寄せてくるが、その8割くらいはチャリンコで乗り付けてくる。港区側に工場労働者の受け皿があり、大正区側には公立ヤンキー高校がいくつかある。通勤通学の足として利用者が非常に多い事がわかる。

時間になると大阪市建設局の職員が船を出航させ対岸に向けての短い船旅が始まる。やはり川幅も短いせいか、所要時間はものの一、二分くらいである。ちなみに尻無川はこの甚兵衛渡船場から下流部で対岸に往来できる場所は「なみはや大橋」まで全くない。

木津川を渡る同じ大正区の落合上渡船場と同じく、尻無川を渡るこちら甚兵衛渡船場の船上からは全国的にも珍しいアーチ構造の「尻無川水門」を拝むことができる。

それにしても「尻無川」とはケッタイな名前の川である。同じ名前の川は北海道から鹿児島まで日本全国にあるらしいが、「一般的には下流に行くに従って幅の小さくなる河川のことをいう」をWikipediaに記載があった。大阪の尻無川は別にそんな川じゃないんですけどね。

短い船旅を終えると対岸側となる大阪市港区側に辿り着く。川幅はせいぜい100メートルくらいしかないが、橋を架けたり、安治川隧道のように地下トンネルで繋げたりという事は、この先も行わないのだろう。

明治時代からの歴史があった大阪市営交通が民営化された2018年、地下鉄も市バスも大阪市のものではなくなった形にはなったのだが、この市営渡船場は廃止された大阪市交通局の管轄ではなく建設局が運営している。民間委託されている落合上渡船場を除けば残り7ヶ所は未だに大阪市建設局や港湾局の職員が配置されていることになる。

ここから地下鉄弁天町駅もしくは朝潮橋駅まではかなりの距離があり、徒歩のルートはちょっとくたびれる距離がある。みなと通まで出れば市バスの夕凪バス停が徒歩10分程度と比較的近い。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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