毎年毎年、不動産関連業者が繰り返し発表する「住みたい街ランキング」、首都圏では吉祥寺がどうの自由が丘がどうのと言われるアレであるが、これには関西版ランキングもあり、そこで殊更取り上げられるのが兵庫県西宮市、阪急神戸線沿線にある「西宮北口」という街、通称「ニシキタ」である。
大阪・梅田から阪急神戸線の特急電車で片道12分、ホームから上がると駅構内の広いコンコースが現れ、多くの通勤通学客でひしめいている。大阪から目と鼻の先なのに、大阪もとい、関西特有の下品さは微塵も感じられない。ここが「関西住みたい街ランキング1位」の街らしい。果たして、一体何が理由でそうなっているのだろうか。
駅に学習塾・予備校の広告ばかりが目立つ街
まず西宮北口駅に降り立つと駅構内のあちこちで目につくのが、しつこいくらいに張り出されている各種予備校や学習塾の広告である。この西宮北口をはじめとして阪急神戸線沿線は特に教育熱の高い街が勢揃いしていて、交通の要衝である西宮北口駅周辺に塾や予備校が密集しまくっている。
同じ西宮市を走る阪神沿線であればパチンコ屋なんぞの広告が立ち並ぶところに、日能研だの浜学園だの東進衛星予備校だのといった広告がねじ込まれるガリ勉仕様が西宮北口最大の特徴である。ここの学生は東大か京大を目指さなければ非国民扱いされそうな勢いだ。首都圏で言う埼玉の文教都市浦和の予備校銀座タウン・南浦和的なノリなのだろうが、こちら西宮北口の方がよりピリピリした印象がある。
何はなくとも受験勉強の妨げになるものは排除、排除!また排除!それが関西屈指の文教タウンの一角を担う西宮市の方針なのか、この駅にも有害図書を放り込む「白ポスト」が設置されている始末。武庫川を挟んだ向かいの低学歴タウン尼崎とはまるで別世界なのである。毎回思うのだが、関西は底辺の住む街とエリートの住む街の差が激しすぎる…
阪急西宮ガーデンズが牽引する「住みたい街・西宮北口」
ここ数年の「関西住みたい街ランキング」とやらで不動の1位をキープしているのがここ西宮北口である。その人気の理由の一つにあるのが2008年に新しく駅前にオープンした「阪急西宮ガーデンズ」であろう。駅のホームにある駅名標にもしっかり「阪急西宮ガーデンズ前」と表記されている通りである。
西宮北口駅から阪急西宮ガーデンズまでは少し離れているものの、動く歩道付きのペデストリアンデッキで直結しており、割と身なりのしっかりした勤め人やご家族がいそいそと往来しているのが見られる。まさにイマドキテイストな街の光景。
東の東急とあらば西は阪急とばかりに、駅前にどでーんと巨大なシャレオツをショッピングモールをぶっ建て、関西の住宅人気を牽引している、その渦の中心たる場所がここだ。実はここ「阪急西宮スタジアム」跡地で、かつてのプロ野球チーム「阪急ブレーブス」(現・オリックスバファローズ)の本拠地だったんですけどね…
阪急西宮ガーデンズ内部も、よもやここが関西だとは思えない程にキラキラシャレオツ仕様でおったまげ状態が止まらない。阪急百貨店を核テナントに、割と裕福な阪急神戸線および今津線沿線民向けに高級な各種専門店やシネコンを併設しており、当然ながら西日本屈指の規模を誇る。
関西特有のガラの悪さ、アクの強さを敬遠しがちな首都圏や地方からの「転勤族」にとっても住宅人気が非常に高く、「ニシキタであれば首都圏に引けを取らない文化的な生活が送れる」と判断されている事がその理由、という事らしい。綺麗でハイセンスなモール、高いレベルの教育環境、通勤利便性の良さ、その全てが兼ね備えてある街、という事なのか。
駅北西側は学習塾・予備校密集地帯の超絶ガリ勉ゾーンだが…
阪急神戸線と阪急今津線の線路が街を十字に分割している西宮北口駅前のうち、駅北西側にある商店街が最も栄えていて、ここにとりわけ多くの学習塾や予備校が密集している。文教地域とは聞いていたが、駅前のにしきた公園はなんか小汚いし、商店街の入口に軽トラで乗り付けている怪しい果物売りの兄ちゃんの客引きがしつこいのが安定の関西クオリティである。
駅前一等地という事もあるのだろうが、何の変哲もない没個性的なチェーン系飲食店や居酒屋なんぞが多く、文教地域らしい上品さは一見みられないのが意外である。だが、パチンコ屋は西宮北口駅前では駅南側に一軒だけある程度で、この商店街には一軒もない。
そうこうしているうちに学習塾だらけのテナントビルが早速現れる始末である。少し気をつけて見てみれば異様な程に学習塾や予備校の類が多いという事に気がつくはずだ。この地域に住むのならば、子供を学習塾に通わせない家なんて「あり得ない」んだろうな。
中学受験もお盛んな文教地域っぷり全開のテンションに、中卒・高卒で工員デビューがデフォで地域の学力ランクも最低クラスである大阪市内の貧民窟(市営住宅)で生まれ育った当サイト管理人もただただ呆然とするしかない。全く見ている世界が違うんだもの。
こちらはSAPIXに浜学園、学研教室もこぞって入居しているガリ勉ビルディングである。特に浜学園なんかは私立・国立小学校受験を専門とする幼児教室まで併設している。
「スーパーエリート塾」を自称する難関中学受験専門校「希学園」の看板といい、右も左もエリート意識の高さが容赦ない。もはや偏差値70以上なければ、この街で暮らすには呼吸困難になりそうです。
極めつけには東大京大専門で圧倒的な合格者数を誇る超エリート塾「鉄緑会」の教室も鎮座している事だ。ここは特定の名門エリート中高一貫校の学生(関西の場合は灘、洛南など)でなければそもそも入塾資格がない。
関西屈指の予備校・学習塾密集地帯である西宮北口。中学受験から大学予備校までざっと見たところ20軒以上はありそうなんですが、これだけあれば夕時になると我が子を学習塾へ送り迎えに訪れる親の自家用車で駅周辺が混雑するのは容易に想像できる。阪急神戸線沿線の優良住宅街育ちの子供達はさぞかし生まれた時からお受験、お受験!なのであろう。
こちらも全国展開している英語教育のプレスクール「キンダーキッズ」、最近新設されたらしい西宮校でございます。関東ではたまプラーザとか、やっぱり教育熱の高そうなエリアにありますね。
なぜ「西宮北口」は関西屈指の文教地域となったのか
なぜ西宮北口はこんなに文教地域っぷりが容赦ないのか、そのヒントとなるものが駅前「にしきた公園」内の案内板に記されている。西宮には明治末期から戦前にかけて「西宮七園」と称される郊外高級住宅街が鉄道の開通に伴い進められ、その当時から大阪の実業家や富裕層が移り住んできた、という歴史がある。
この西宮北口駅の北西部は「西宮七園」のうち昭和園、甲風園という2つの地域が近接している事で、現在まで続くお上品なガリ勉地域の礎になった、という見方をするのが妥当なところである。他にも西宮市には甲陽園、甲東園、苦楽園、香櫨園、甲子園といった地名があるが、これらも全て「西宮七園」のお仲間である。すなわち「関西のエリートは西宮に住む」という流れは、戦前から出来上がっていたのだ。
しかしまあ、学習塾ばっかりで勉強以外に何をすればいいのか分からないような街に腰を据えて住んでしまうというのも、下賤な地域で育ったあまり人生そのものを白ポストにぶち込みたいくらいの当方から見れば息苦しい以外の何者でもなく、ニシキタがとても「住みたい街」には思えないんですが、皆様の印象は如何なもんでしょうか?