ケミカルシューズと在日の街…長田区源平町にあった朝鮮人飯場は今どうなっているのか 

神戸市

神戸のド下町新開地を始点に六甲山を回りこんで有馬温泉やら神戸市北部の訳の分からない山岳地帯へと至る「神戸電鉄」は地元民でも無ければなかなか乗るようなきっかけもなかろう。この神戸電鉄の電車に新開地ないし湊川駅から乗るとものの10分もしないうちに何やら山深い街並みに変わる。

やってきたのは長田区の奥座敷である丸山駅。始点の新開地駅から僅か3つ目の駅だ。都心からは非常に近いはずだが昼間1時間に4本しか来ない各駅停車しか止まらない不便な駅でもある。なんで不便なのかは実際にここの駅前風景を一目見ただけで理解できるはずだ。

丸山駅のホームに降り立つとそこは山の中腹。眼下には長田区の街並みが一望出来てなかなかの眺めであるが手前に目をやると薄汚い屋根のバラック風味な家屋が目立つ。ここは何なのだ。忘れ去られた町なのか。通過列車が頻繁に駅のホームを素通りしていく。

我々取材班を載せて走ってきた神鉄の真新しい各停電車は無情にも誰も人っ子一人居ない丸山駅のホームを去っていった。車窓からものっけから長閑な風景が広がっているが乗客はやけにチンピラ風情が多い不思議な電車である。

改札を出て駅前の通りを歩く。とは言っても駅から続く道はこの一本しか存在しない。コンビニ一軒すらない寂しい駅前風景。申し訳程度に個人商店が点在しているが空き地や廃墟もあり、このような貼り紙だらけの変な家もある。


その民家の玄関周りに貼り付けられている張り紙についつい目をやる。「貸駐車場有りますよ 駅から近く 安いよ」の一文と、地主の名前と携帯番号が書かれている。駅から近いって…この丸山駅の事ですかね。

ちなみに新開地から電車だと僅か6分で来れるが、車で来ると30分近く掛かる。とんでもなく遠回りで不便極まりない。とは言え周辺住民の多くも山肌沿いに回りこんでこの駅まで歩いて来るのも大変なので時間の掛かる市バスに乗って都心に出ていく。

しかし地主からのメッセージはまだまだ続く。「低体温の心配がなくなる靴敷有ります」何なんだよこれ。老人ならではの健康オタクなのか何でも屋さんなのか。実に商魂逞しい関西人といったところか。

ここいら一帯は「風致地区」指定を受けていて宅地造成に神戸市長の許可がいる所らしい。現地に来れば分かるが山の中腹の傾斜地で道はグッチャグチャ、そんな場所でも既に宅地造成しまくりでかなりカオスな街並みになっている。隣の「動物焼却場絶対反対」のポスターも香ばしいでんな。

神戸の丸山がどういう場所なのかこの写真を見ていただければ分かるだろう。まさしく山の中を切り開いて作られた町。まあ言うなれば「山の手」である。

神戸の山の手と聞くとたいそう響きが良いのだがこれが長田区の山の手となると一向に高級感の欠片もなく古びた民家ばかりが目立つ。これがさらに高密度になると南米ブラジル・リオデジャネイロ郊外のスラム・ファベーラになりそうな勢い。

…で、駅前から続くこの道すがらにもかなり香ばしげなボロ家が姿を現す。一目見て分かるがこれも廃屋である。一体何年前から放置されているのか。

それから二棟続いて木造アパート風の廃屋。急傾斜地に無理矢理建てられているので土台だけでも随分高い。二階建てなのに威圧感が違う。玄関へ至る階段の周りも雑草が伸びきって放置っぷりの酷さを感じる。これ一応駅前徒歩1分の物件ですよ?

そして廃屋の壁に容赦なく貼り付けられる政党ポスターやローン会社の広告看板、神戸医療生活協同組合の掲示板。みな一様に貧乏臭さを醸し出している。これが長田区クオリティなのでしょうか。

建物の表だけに飽き足らず、裏側の路地に入って眺める。しかしこの裏道もどこに通じているのか…

廃屋の裏側に回るとそこには民家の勝手口らしき残骸が現れた。もう見るからに現役ではない。どうでもいいけど建物と道路の間の隙間が怖いんですが。落ちたら骨折ものだぞ。

ここまで来て何故我々取材班がこの丸山という辺鄙でマイナーな場所を訪れたかようやく本題に入るが、この一帯は戦前に神戸電鉄の敷設工事により各地から朝鮮人労働者が集まり飯場が作られた場所で、現在も飯場の名残りとして労働者の子孫が住んでいるという話を聞いていた。

元々長田区は戦前からゴム産業やケミカルシューズ等皮革産業の集積地でそれらの労働力として朝鮮人が集まったという経緯もある。神鉄の工事に従事した朝鮮人労働者もそれらの伝手を辿ってきたのか知らんが、何度もトンネルの落盤や土砂崩れなど事故を起こして二桁の死人を出した末、昭和3(1928)年11月28日に神戸電鉄有馬線は開業した。

その飯場は丸山駅近くの長田区源平町、神戸電鉄の線路から山側の、車では立ち入れないような細いトンネルの奥の谷筋に沿って3ヶ所、平成の世となった現在もひっそり残っていると聞いたのだ。

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