まだまだ一般庶民にインターネットの環境が無縁だった1990年代に遡ると、地上波テレビ番組がなおも家庭の娯楽の中心にあった時代だった。お茶の間に一家が集いテレビを囲む夜7時から10時までが「ゴールデンタイム」と呼ばれ、その時間帯に流れるテレビ番組の放送内容が翌日の職場や学校などでの話題となる。
1992~1998年まで、日本テレビ系列局でゴールデンタイムに特別枠で計12回放送されていた「たけし・さんま世界超偉人伝説」というシリーズ番組があり、この中のコーナーに関西圏の奇人変人・珍スポットを面白おかしく紹介する「大阪ミステリーゾーン」という企画があった。
九条ナインモール商店街の「30年間一個も売れへん仏壇屋」だとか、あとは玉造にあった「アジアコーヒ日の出通店」だとか。あれで「ネーポン」という謎の飲み物がちょっとしたブームになって、番組が取材を繰り返す度に店主がいちいち値上げして最初は一本250円だったのが300円になって、しまいには500円になるというガメツさも笑いのネタにしていた。
今の40・50代くらいの中年世代にとっては、古き良き時代のテレビ番組であるが、時期的にはオウム真理教がテロ事件を続発させた頃とも被る。日本テレビは1991年、とんねるずの番組に麻原彰晃を招待し、危険な反社会的カルト宗教の教祖すらも面白おかしくTVショーのネタとして貪欲に取り込んでいた。
放送当時、この教団は既に坂本弁護士一家を殺害していたのだが、それも含めた悪の諸業の数々、そしてまさか地下鉄にサリンをばら撒かれるなど、当時の番組スタッフの脳裏によぎることなど一切なかったのだろう。思えばあの時期を境目に“テレビの凋落”が始まったのかも知れない。
たけし・さんま世界超偉人伝説に“ミステリー骨董品屋”として度々登場していた「胡本新古美術店」という店舗は、大阪ではなく兵庫県宝塚市にあった。阪急宝塚線に乗って、終点の宝塚駅の一つ手前の「清荒神駅」で降りる。古くから庶民の信仰を集めた“荒神様”と呼ばれる古刹「清荒神清澄寺」の参道商店街が駅前から伸びている。あの骨董品屋が今どうなっているのか、そして参道商店街の風情を確かめたくなって、ふと気になって訪ねてみた。
【有料配信記事】全文お読みになりたい場合は「note」の記事もしくは「codoc」の課金システムをご利用下さい。