【生駒市】生駒山中腹、宝山寺参道の石段に広がる旅館街「宝山寺新地」を歩く(2011年)

ケーブルカー宝山寺駅を降りて少し歩くと、宝山寺参道の聖天通りに差し掛かる。ここから石段と旅館が立ち並ぶ独特な風景が続いているが、この場所こそが知る人ぞ知る「宝山寺新地」。

普段何もない昼間などにこの場所を訪れても人通りも殆ど無く寂れに寂れた末期的な旅館街といった印象しかない。しかもどこにも「新地」と書かれてもいない。

事情を知らない者から見れば、温泉街でもないのにまるで群馬の伊香保温泉を思わせるかのように石段と旅館が立ち並ぶ風景を不思議に思うかも知れない。だが宝山寺は歴史のある新地の一つとして今も細々と営業が続けられている。

宝山寺の旅館街にある案内看板には今も営業中の14軒の料理旅館の名前と電話番号が記されている。看板はリニューアルしたようで真新しい。それに伴い廃業した数軒の旅館が消されている。旅館街は最盛期には麓の生駒駅近くまで旅館がずらずら続いていたと言われるが、その栄華の痕跡は殆ど見当たらない。

廃業したままの旅館「吉水」の成れの果て。入居者募集しているようだがもう何年もこのまま放置プレイの状態が続いているようだ。飛田だったら空き物件があれば速攻で埋まるものだが、大阪の奥座敷であるここ宝山寺にはそこまでの需要はないものだろうか。

旅館の看板もそのまんま残っていた。荒らされている形跡がないだけマシかも知れないが、じわじわと旅館街の灯が消えようとしているかのようで悲しくもある。

宝山寺では旅館とは別に置屋が何ヶ所か存在しているそうで、なるほどそういう仕組みなのね、という事だが、どこを見回しても置屋らしい建物が見当たらない。まあ一発で分かる方が難しいか。

ひとまず石段を登ったり降りたりしながら街並みを見て行く事にしよう。旅館街は殆どがこの石段沿いに並んでいる。

ケーブルカーの駅から石段を下ると三軒の旅館が間を空けて並んでいる。特に城郭を思わせる外観の旅館「やまと」が際立っている。

さらにその下には「富士屋」「つぼ美」と続き、旅館街はそれ以後途切れる。石段をそのまま下れば15分程度で麓の生駒駅前に辿りつける。行きはケーブルカーを使って帰りは徒歩にしても良い。

大阪からは生駒山を挟んだだけで隣り合っている街であるが、時間の軸が大阪は全く違う上、宝山寺という世間とは隔絶された土地の非日常感が何ともたまらない。言うなれば三重県の「渡鹿野島」のそれに近い感覚だろう。

その向かいにもレトロな丸窓のついた家屋が残っている。ここもかつては旅館だったのだろうか。場所柄も相まって、その場にあるだけでも非日常性が高まる建物だ。

一軒だけ、元旅館を改装した座敷カフェ「ナイヤビンギ」という店舗がある。店の名前が建物とあんまりミスマッチなもので調べたら、レゲエ用語らしい。何やらラブ&ピースな匂いがするが、予約すればオーガニック御膳が頂けるそうで、流行りの古民家再生レトロほっこり系路線の模様。

旅館に入るのは躊躇うけど宝山寺新地の雰囲気だけ味わうにはちょうど良いかも知れない。

新地遊びか初詣か、なにはなくとも宝山寺を訪れたらこの石段から眺める生駒の街の景色を拝む事になる。晴れていれば若草山の山焼きなども眺められて素晴らしい限りだ。

聖天通りに立てられたせんとくんのイラストつき幟を見て、ここは一応奈良県であることを再確認する。鹿や大仏と戯れるのもいいが宝山寺も忘れずに訪問して欲しい。ほんまもんの奈良裏観光スポットです。

普段は物静かで非日常的で怪しげな石段の旅館街も、初詣シーズンには老若男女入り交じり普通の参拝客でごった返す。そこが常人近づき難し大阪五新地とは決定的に違う特徴である。初詣以外の時期に訪れると、時折妙に場違いなお姉ちゃんが1人ないし2人連れで歩いていたりするのを見かけるが、これが「従業員」なのだろう。

旅館街はわずか100メートル程しかない狭いエリアに密集している。どの旅館もちゃんとした「政府登録観光旅館」だったりするので、新地遊びが目的ではなくとも普通に宿泊しても構わない。

料理旅館の数々も正月期間中はしっかりと休みを取っている。最も参拝者で賑わいそうなシーズンにわざわざ揃って休業中なので、やはり事情を知らない人間には不思議に見えるだろう。

宝山寺境内に向けて石段を登っていくと旅館街は石段左側に固まって並んでいる。まず最初の「月見野」。やはり正月休みっぽい。

続いて山小屋ロッジ風の「日新」、それから「三喜」と続く。

左側に旅館が立ち並んでいるが、右側には古びた看板がそのまま残る運命鑑定士の店があった。ギラギラと胡散臭くスピリチュアルな石切参道の占い店とは違って商売っ気は皆無である。

どうしても石段沿いの旅館が気になってそっちばかり見てしまうが、旅館街を左に折れるといくつか路地が残っていて、まだ何軒かの旅館もしくは廃墟を見る事が出来る。

どこかお上品で和風な佇まいを留める「吉乃家」。京都の町家にあるような風情が漂う。その先には「朝日」「城山」と続く。

この先もまだまだ石段が続いていくが、その向こうから宝山寺境内となる森が迫ってくるのが見える。にわかに参拝客の姿も増えてきた。

石段沿いに旅館ばかり並んでいたと思ったら、土産物屋らしき店が一軒残っていた。しかしこれよく見ると土産物屋じゃなくて「神具店」だった。神棚や招き猫やらダルマやらが売られているが、いかにも観光地的な品物は置かれていない。

石段最後の直線が見えてきた。あともう少しである。それほど長い階段ではないはずだが、人によってはここで普段の運動不足を思い知らされる事だろう。

旅館街は最後に「三徳」「緑風閣」と来て「たき万」で終了となる。

ラストの「たき万」は場末感漂う看板に少し奥まった玄関というレイアウトが秀逸。

これで宝山寺門前町の旅館街は全て見て回った事になる。

昔はもっと数多くの旅館があったはずだが、長い年月とともに確実に廃業していく旅館が増えている。特別商売っ気のある旅館がある訳でもなく、時の流れるまま、といった印象。いずれは無くなってしまうのだろうか。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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