【此花区】大阪市内にも残る漁港…「伝法漁港」で喰らうふぐ料理の味

「漁港」という言葉を聞くとどんなイメージを思い浮かべるだろうか。和歌山か、その手前の泉州か、それとも若狭や丹後半島などの日本海側か、近鉄電車に乗って行く伊勢志摩だとか、遠い場所をイメージしてしまいがちである。ところがどっこい、大阪市内にも「漁港」は存在する。

…というわけでやってきたのが大阪市此花区にある阪神なんば線「伝法」駅。以前は阪神西大阪線の一部で、西九条で糞詰まりだった路線が都心に直結したおかげで交通利便性が高まったエリアである。駅の東側には高見フローラルタウンなどという大型団地があったりするが今回用事があるのは駅の西側だ。

阪神なんば線で都心直結の知られざる「大阪市内唯一の漁港」へ

駅の西側に出ると国道43号線の高架下を潜る事になる。阪神工業地帯における幹線道路であり古くから排気ガスや工場からの公害によって住民が苦しんできた地域でもある。市営住宅に加え伝法団地などURの団地が多い関係でその住民と思しきチャリンコが駅前の駐輪場に大量に置かれている。

国道43号線を渡ってから、歩いて5分もしない間に「伝法漁港」の入口が見えてくる。住宅街に突然現れる漁港といった印象か。一歩足を踏み入れると、もうそこは完全に漁港そのもの。

船溜まりにずらりと並べられた漁船の数々。これが漁港じゃなかったら何なのだろうか。大阪市内にこのような漁港らしい佇まいを残した所はもはや伝法以外に見当たらない。

西淀川区大和田、港区八幡屋などにもかつては小規模な船溜まりがあったが、衰退して殆ど無くなってしまっている。あと西区川口に中之島漁港ってのが出来てますけど、ありゃ違いますよね。

そんな船溜まりのフェンスに掲げられたプレートが目に入る。よくある犬糞看板の一つであるが大阪ベイエリアのガラの悪い下町では書かれている言葉も『犬の「クソ」わ』などと随分と直接的過ぎて笑うしか無い。特に接続詞が「わ」になっているあたりがジワジワ来る。

伝法漁港の船溜まりの一画には「伝法川跡」を示す石碑が置かれている。淀川最下流の町であり海抜ゼロ地帯でもあるこの界隈は昔から大雨や台風によって大水害の悲劇に見舞われた。重工業地帯でもある此花区はとりわけ工業用水に使う地下水を汲み上げた事などにより地盤沈下の酷い地区として名を残しており、この周辺の土地は海抜ゼロどころかマイナス地帯。満潮時にもしも堤防が無かったら、家の2階にまで水が押し寄せる事になるだろう。

その治水対策の結果が広い川幅を持つ目の前の新淀川であるが、かつて水質汚染が激しかった事で知られるこの川も、かなり水質が改善されていて、フツーに海産物が取れるほどにまでなっている。

豊臣秀吉が大阪城を築いた時、海上交通の要だった当地を通り城壁となる巨石を船で運んでいたそうだが、運搬途中で船から落ちた石が「残念石」と呼ばれ、何百年もしてから川から引き上げられて、伝法漁港の船溜まりを眺めるこの場所でベンチになっている。

かつて工業で栄えた此花区そのものの通り、この伝法漁港の船溜まりもとっくに鄙びきった空間でしかないが、都心から電車で10分ちょいで行けるような場所とは到底思えないのんびりした生活風景が見られる。

「大阪市漁業協同組合」と書かれたこの建物に、漁業関係者の作業場を兼ねて、今回お邪魔する事になるふぐ料理屋「克政」の店舗も入居している。なにはともあれ営業開始は夜になってからだ。一旦出直す事にする。

大阪市内唯一の漁港で喰らうふぐ料理の味

夜の帳が下りる頃、再度秋の冷たい川風に吹かれながら伝法漁港までやってまいりました。この時間帯だと西九条からタクシーを使う方が楽である。大阪ベイエリアなんてどこもかしこも治安もあまり宜しくございませんので。

大阪市内唯一の漁港にして唯一の食い物屋である「魚料理 克政」にピットイン。場所が場所であるゆえ事前に予約を取る必要があるのでご注意下さい。夏場の6月~9月頃までは鱧料理、それ以外は年中ふぐ料理が食えます。

店内は全て座敷席オンリー。漁協の建物と同じ場所にあるのかして、内装も地味で色気もへったくれもない。ゴージャス感とか非日常感を求めて来るような場所ではない。そういうのを求めるなら北新地にでも行けば良いのだ。ここは知る人ぞ知る穴場的な店である。

店内の壁にあれやこれやと芸能人や相撲力士なんかのサイン色紙が貼り付けられている。こういうのを見るとついつい「まいう~」のサイン色紙を見て興醒めするオチが付く癖がついてしまっているが、ここは東京ではない。首都圏での生活が長くなりすぎた。しかしネイティブ関西人はそれに似たような思いを「魔法のレストラン」の水野真紀のサイン色紙を見て抱いているのだろうか。

ふぐ料理コースを注文しておいたが来店早々さばきたての新鮮なトラフグが丸ごと一匹デデーンと盛られてくる。さすがに近所の淀川で泳いでいた天然物ではないようだが、このボリュームで写真は4人前である。

全国でもふぐ消費量6割を占める大阪の、知られざる漁港で喰らうふぐ料理コース、1人6000円くらいと比較的リーズナブルなのも嬉しい。大阪出身者は何かと出世したときにふぐ料理を食いたがる風習があるものだが、別に当方の出版記念パーティーで来たという訳ではない。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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