【吹田市】警官襲撃事件で揺れる、阪急千里線の優良住宅地「千里山」を歩く

大阪にやってくる「転勤族」が口々に言うのが「大阪に住むなら北摂だ」という意見である。新大阪駅に近く、同じ転勤族が多く住み、教育環境が比較的良好であり、他地域出身者が文化的なコンフリクトを起こさず暮らせる土地、という定理があるようで、長く信じ込まれている。しかし当方に言わせればそれでも「大阪は所詮大阪だ」という事を付け加えておこう。

今回やってきたのは、そんな「北摂」の範疇に入る街、大阪府吹田市に属する阪急千里線「千里山」駅。阪急梅田駅から淡路乗り換えで約20分、直通運転している地下鉄堺筋線で堺筋本町駅から約25分。転勤族が求める「北摂の住環境」はこの千里山駅および北大阪急行線緑地公園駅から北側であり、ここは南限にあたる。

この千里山駅がある阪急千里線と言えば、昭和45(1970)年に開催された大阪万博におけるアクセス経路として北大阪急行線と同時期に整備されたものとばかり思っていたが、当駅は戦前の大正10(1925)年から開業しているというので、結構な歴史があるのだ。昭和38(1963)年に南千里(当時の駅名は新千里山)まで、その後の昭和42(1967)年に北千里まで延伸され、今に続いている。

大阪にもハワードの田園都市計画が!千里山の「レッチワースロード」

なぜそんな早い時期から千里山に鉄道が通されたか、ということについては、千里山駅西口の目の前から伸びるこの駅前商店街のあるメインストリートを見ればわかる。どうもこの千里山、開発当初は東京・大田区の超有名高級住宅街である「田園調布」よろしく、郊外型優良住宅地として整備された地域だったというのだ。

なんせ通りの名前にも横文字全開で「レッチワースロード」(Letchworth Road)だなんて書かれているではあーりませんか。レッチワースというのは、イギリスのエベネザー・ハワードが提唱した「田園都市構想」に基づいて初めて計画されたロンドン北部の郊外型住宅都市の名である。

それが日本では新一万円札の肖像画に選ばれた渋沢栄一翁が主導で推し進めた東京の田園調布が代表例として挙がるが、ここ大阪でも千里山住宅地がその一つとなっている。今も千里山の街のシンボルとなっているレッチワースロードの中心に鎮座する噴水広場の片隅には、えらく年季の入った「千里山開發記念碑」がいかめしくそびえ立つ。

大正9(1920)年に設立された「大阪住宅經營株式会社」によって整備された千里山住宅地。阪急千里線はこの住宅地で暮らす住民の足として作られたのが始まりだったわけだ。現在も噴水広場には桜などの樹木が生い茂り、大阪らしからぬモダンで華やかさと重厚感のある空間として活きている。

そりゃこんなイキフンの良い噴水広場もあれば、ちょっくら楽器片手にやってきては演奏する浪速のモーツァルト、もとい「千里山のキダ・タロー」的なオジサンもおりますですよ。

そんな噴水広場の前には住宅需要の高さを伺わせるかのようにいかにもな不動産会社の店舗があったり、地域の教育熱の高さを伺わせる学習塾なんかもある。大阪市内とさほど変わらぬ雰囲気を放つJR吹田駅前あたりと見比べてみれば全く世界が違って見えてくる事必至。はい、これが「吹田市の南北格差」です。

パチンコ屋はないけどたこ焼き屋はあるねんで

駅前一等地に下品なパチンコ屋が必ずあるのが大阪クオリティだというのもお馴染みだが、阪急千里線に限ってはここ千里山も含めて、一つ手前の関大前から北千里までどの駅前にもパチンコ屋が一軒も存在しないのだ、そりゃ教育ママは飛びつく土地だろうよ。一方で御堂筋線や北大阪急行線を見れば江坂にも千里中央にもパチンコ屋はある。

まあ、そんな千里山の“気品”を見せつける噴水広場の真ん前に「たこ焼き屋」があるところなんかを見ると、やっぱりここは大阪なんですね、と急に現実に引き戻された気にもなる。

それからレッチワースロードを外れた一画には昭和の時代から変わり映えもしない、古いビルに個人商店が密集する風景も見られる。既に開発から100年の節目を迎えつつある千里山はもはやニュータウンと呼べるような場所ではない。

もうここいらとか、カビが生えかかったような街並みを晒しているわけだが、同じ北摂でも箕面市のような北部や、あとは阪神間の夙川~岡本のような場所に人気が集まっている中、千里山は駅前ですら街の新陳代謝が止まった箇所が見受けられる。

場末感漂うスナックとか、勤め人の御用達っぽいお惣菜屋さんまであって、もはや高級住宅街と呼べるのも躊躇われる。言うなれば「いつもの大阪」的下町風景も千里山にはあるわけだ。今どきの転勤族は、南千里以北で物件探しをした方が無難ですかね?

ちなみにレッチワースロードをそのまま西進すると、国道423号(新御堂筋)にぶち当たり、豊中市の服部緑地公園に至る。その道中にある「千里山ロイヤルマンション」なんかも建築関係では超有名なヴィンテージマンションですが、そこまで行ってしまうと最寄り駅も違う。また次の機会だな。

千里山住民を恐怖の底に叩き起こした「千里山交番警官襲撃事件」

そして千里山におけるここ直近の話題として避けられないのが、2019年6月16日早朝、千里山駅東口ロータリーにある大阪府警吹田警察署千里山交番に勤務していた26歳の警察官がとある男に襲撃され拳銃を奪われるという、ちょっとこれまでの法治国家・日本ではあまり起きる性質のない物騒な事件が発生した事だ。

世界各国の首脳が大阪に集結する「G20大阪サミット」の開催が迫っていて、テロ事件を起こすまいと警察も躍起になっている中でのこの事件だ。吹田市では犯人確保が遅れた場合、学校を休校にする非常体制を敷くかの判断に追われ、近所の関西大学ではオープンキャンパスが取り止めになるなど、市民生活への影響も甚大だった。

とうとう大阪もネタではなくヨハネスブルグ並みになったか、などと騒がれたが、結局犯人が逮捕されると「テロ目的」という線は消え、個人的な怨恨の可能性が強くなったわけだ。けれども、もっとも大阪的なガラの悪さとは無縁で、出張族が安心感を選んで住んでいるはずの「阪急千里線」の沿線でこんな事件が起きたことに衝撃を受けた人間も決して少なくないだろう。ああ、やっぱり大阪には安全な地域って無いのだな、と。

犯人の33歳男はその翌日の17日に箕面市の山林に潜伏しているところを発見され逮捕されたが、自らの精神疾患を理由に無罪を主張している模様。

そしてこの犯人が関西テレビ放送の常務取締役をしている人物の実の息子であった事が判明し、またひと騒ぎしている。犯人である息子と妻の二人は東京都品川区南品川の自宅で暮らしていたというが、関テレ役員の父親だけが大阪で別居していたということらしい。犯人が小中高時代を過ごしていたのは、フェイスブックのプロフィールに書かれている川崎市ではなく、ここ吹田市の阪急千里線沿線である。蛇足までに、関西テレビ放送があるのは地下鉄堺筋線扇町駅前。千里山から電車一本で行ける。

犯人は犯行の直前、小中学生時代のクラスメイトだった人物をフェイスブックから調べ上げ、手当たり次第に「住所を教えてくれ」というメッセージをよこしていたというので尚更気味が悪い。本人のフェイスブックアカウントも、また不気味さを放っている。交番で警官を襲ってまで入手した拳銃で、何をするつもりだったのだろうか。

ちなみに襲撃された警官は瀕死の重傷を受けながらも、どうにか一命はとりとめたという。肺の一部を摘出する手術を受けたそうで、職場への復帰にも影響を与える事は必至、今後長らく何らかの後遺症に苛まれる事だろう。命だけは助かったとはいえ、気の毒である。大阪で警察官という職業に就くのは、それほどまでにただならぬ覚悟と勇気が必要なのか。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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