19世紀末、イギリスのエベネザー・ハワードが提唱した「田園都市」という郊外型ニュータウンの概念は、明治以降近代化を進めていた当時の日本の都市開発にも積極的に取り入れられた。首都圏では田園調布(大田区)や成城(世田谷区)や常盤台(板橋区)、戦後には東急による多摩田園都市の建設などが挙げられるが、特に関西では甲子園含む西宮七園(西宮市)や千里山(吹田市)などがあり、北摂阪神間に多いイメージがある。

ところがどっこい、お上品な郊外住宅地というイメージが到底思い浮かばない、泉州だか南河内だかよくわからない堺市の南海高野線沿線にもそのような「田園都市」として開発された街がある。堺市東区、南海高野線北野田駅近くの「大美野」という地域だ。
“ぺこ”ことオクヒラテツコさんのご実家がある堺の高級住宅街・大美野です

南海北野田駅の西口から歩いて5分少々の場所に「大美野田園都市」と称する高級住宅街がある。戦前期に関西各地で宅地開発を手掛けてきたデベロッパー「関西土地」が作り上げた田園都市の一つで、昭和6(1931)年に街開きして以来の歴史を持つ。

大美野田園都市のシンボル的存在である、街の中心のロータリー。ここから道路が八方に分かれ綺麗な放射状に広がっている。ここだけ道路がヨーロッパ風味になっているが、日本社会には「ラウンドアバウト」(環状交差点)はつくづく馴染まなかったようで、こういう交差点がある地域ってマジで少ないっすよね…

ロータリーのど真ん中の噴水。あのでかい石の玉のてっぺんから水が吹き出ていたのだろうが、水は停まったままだ。台座の部分には「野田村 大草村 合併八週年記念」とあり、昭和33(1958)年に設置されたものであると記されている。

その通りに大美野の開発当時、当地は「南河内郡大草村(大艸村)」と称していた地域だったが、昭和25(1950)年に隣接する野田村との合併で町制施行され、その際の新町名が公募された結果「登美丘町」に決まったものが、その後の昭和37(1962)年に堺市に編入合併された後も学校や金融機関などの施設名に多く使われている。泉州ではなく南河内だったんすね、ここ。

約40万㎡もの広大な分譲地が大胆に開発され、その住宅地の多くに今も豪邸やら高級マンションが連なる、お上品な街並みが残されているのだ。北野田駅前があまりにグダグダ過ぎたので、通り一つ隔てて別世界みたくなっているのが逆に面白い。

ヨーロッパの田園都市になぞらえて作られた街並み…というのだが、街の中心のロータリー以外はそんな印象も見られない。そもそも街開きから90年近くが経っているのである。何世代にも代わる住民各々の意思だけであの田園調布のようなクオリティの街並みを保全するのは並大抵のものではない。

で、そんな豪邸街の片隅にテレビで見た事のある「220坪、10LDK」と言われる豪邸自慢ネタでお馴染みの“ぺこ”ことオクヒラテツコさんのご実家がデデーンと現れるのである。建築資材会社を経営する社長のお宅ということでそれはそれは裕福で結構な事でございます。大美野と言えば「ぺこ」。皆様もお見知りおきを。
大美野ファウンティン通りという商店街

北野田駅から大美野田園都市の中心となる、中央に噴水を置いただだっ広いロータリーまで連なる「大美野商店街」。同住宅地の住民向けの商店街という位置付けだが、北野田駅周辺があまりにも庶民化しすぎているせいか高級感が抜けきっている。

大美野商店街には「大美野ファウンティン通り」という愛称が付けられている。恐らくロータリー中央の噴水に倣ってその名が付けられたのだろうが、 なんだか“愛の妖精ぷりんてぃん”みたいな語感がしてじわりと電波を感じるのは我々だけか。

この商店街を通じて北野田駅方向と大美野の住宅街とを行き来できるわけですが、途中でいかつい顔のおじさまが高級車を路駐している、ちょっと任侠っぽい会社みたいな一画があってなかなか香ばしかったです。何だったのでしょう。

ここが阪神間モダニズムの香り漂う北摂の豪邸街なら高級スーパーだのテラス席のあるお上品なカフェなんぞが立ち並ぶのだろうが、商店街の看板を見ても古臭い個人商店しかないし、やたらと落書きで汚されている件。ひたすら残念な感じしかしない。

いくら高級住宅街だと持て囃されても周囲がダメなDQN地域ばかりだと、道を歩いていても原付にノンヘルでニケツで跨り颯爽と駆け抜けていく高校生と思しき輩を見かけると、地域柄をお察しせずにはいられなくなる。やはりそこは安定の堺クオリティなのである。

ちなみに堺市では北野田から二つ手前にある初芝駅の東側にも大美野と同じく田園都市構想のもと戦前期に開発された住宅地が存在している。関西土地が開発した大美野とは違い、初芝は南海電鉄が開発したものだ。そう言えば南海高野線には「林間田園都市」というモロ出し過ぎるネーミングのニュータウンが河内長野の先にあるが、あそこまで行くと住所は「和歌山県橋本市」であり、住民は“和歌山府民”と揶揄される。典型的なベッドタウン路線ですよねここ。
大美野でスイーツ(笑)でも食べて帰りましょう

さてさて、ガチな高級住宅街にはセレブの舌を満足させる土着的なパティスリーが根を下ろしているものである。ここ大美野のロータリーの角にそびえる「菓子工房Shinomura」にでもお邪魔してみることにしよう。

さっきから「愛の妖精ぷりんてぃん」が頭にちらつく中選んだのは、絶好の“ファウンティン”ビューで召し上がる「大美野プリン」。美味しゅうございましたザマスよ。しかしこんな高級住宅街にあってケーキ一品300円台デフォというのは、北野田住民の経済事情を反映してのことか。案外庶民派なスイーツ(笑)でしたよ。