新世界の南東部、アーケードのついた横幅2.5メートルの細い道に飲食店や将棋クラブや麻雀クラブがひしめきあう「ジャンジャン横丁」(南陽通商店街)。観光地化強まる新世界においてなお、労働者庶民の下町の色彩が色濃く残るエリアである。
少し昔の話、大阪に住む子供たちの間では新世界や西成界隈はガラが悪いさかい近づいたらあかん、と親に常々教育されていたものである。そんなイメージは「新世界」を観光地として積極的に紹介したメディアが払拭した。若いカップルがこんな所をデートコースになんて、少し前までは考えられなかったはずだが(笑)時代は変わりました。
だけど基本的には労働者の町。ジャンジャン横丁のまん前にも、「西成のオッサン」の暮らしを支える衣食住のショッピングスポットがひしめく。
ジャンジャン横丁の入口にあるホルモンうどんの店「丸徳」。西成育ちの元プロボクサー赤井英和が映画「どついたるねん」でここのホルモンそばを食うワンシーンがあり一躍有名になった。沖縄料理を扱う琉球居酒屋でもあり、大阪のホルモン料理の経営者は大抵沖縄出身者である。
ところで、商店街のアーケードには「ジャンジャン町」と書かれている。ジャンジャン”横丁”の方が通りがいいが、古い世代はジャンジャン”町”と呼ぶ人も多い。まあ、どっちでもいいし、今では商店街自体が通りのいい「横丁」を使っている。正式には「南陽通商店街」。
かつては、新世界から飛田遊郭へ抜ける道として賑わった。遊郭へ向かう客を当てにした飲み屋が、客を呼び込むために三味線や太鼓を鳴らしていた。その三味線の擬音「ジャンジャン」がそのまま横丁の名前に転じたのだ。
戦後、飛田遊郭の廃止ですっかり寂れていたが、近年では新世界の観光地化で息を吹き返している。
もちろんこっち側にも串カツの店がたくさんある。
「ソース二度付け禁止」のおふれこみが出た店として、新世界串カツ店で元祖とも言えるのが、ここ「八重勝」。休日は特に行列が出来やすい。有名店ということもあるのか料金設定が高い気がするが、本格的に新世界の雰囲気を楽しむなら良いだろう。
場所柄ということもあるが、いかついお兄ちゃんの遭遇率も高く、結構ハラハラさせられる空間だったりする。まあ、何かされたりすることもないが。
商店街の一角が「ジャンジャン横丁美術館」と名付けられていて、地元の芸術家や学生の美術作品の展示スペースが設けられている。美術館じゃなくて、ただの壁なのだが、まあそれは言わないことにして。昔の新世界界隈の写真も数多く貼り付けられていて、情緒が漂う。
そこでは新たな「恋人の聖地」が作られていた。えらいベタな場所に、これまたベタなハート型の電飾オブジェ。南京錠を掛けられるようになっている。その名も”誓いの鍵”「新・世界の中心で愛を叫ぶ」(笑)
往年の「プロポーズ大作戦」を思い出させるベタなデザインでステキ(はぁと)
2006年に商店街がいちびって設置したのだが、評判が良くて、1年足らずで南京錠で埋め尽くされた。
2009年のGWの時点では既に「4個目」が掛けられていました(笑)
そんなに長い商店街でもないが、高密度高濃度のコテコテゾーンだ。
ジャンジャン横丁のゲームセンター「かすが娯楽場」。ゲームセンターじゃなくて娯楽場と名乗っている所がポイントだ。
挙句には「ボッちゃんもトゥちゃんも」である。戦後生まれには発音しづらい。
だが、新世界においてはビデオゲームなどは所詮マイナーな娯楽に過ぎない。やっぱり西成のオッサンを熱くするのは「将棋」しかないのだ。
将棋クラブの中はまさに真剣勝負。次の一手を読むギャラリーのオッサンの目も真剣。昭和の演歌歌手・村田英雄が、将棋名人・坂田三吉を歌った「王将」という歌がある。「吹けば飛ぶよな将棋の駒に、賭ける命を笑わば笑え」と。そんな弱々しい将棋の駒に己の人生を重ね合わせるかのように生きる労働者達。それは新世界・西成に連綿と受け継がれていく歴史の系譜なのだろうか。
通天閣の真下には、こんなごっつい王将の駒がオブジェになって置かれていた。
新世界で「王将」と言えば将棋の駒であり、村田英雄であり、坂田三吉である。
しかし今、この王将の駒がある通天閣の真下は、むしろ「餃子の王将」の方が目立っていた(笑)
ここもテレビで何度も紹介されて有名な「いづみ食堂」。一見謎のB級グルメな「シチューうどん」は新世界を知るならば一度は食べるべし。やはりこれも、終戦後、労働者の栄養補給のために経営者が知恵を絞って作り出したメニューの一つなのだ。
レトロ感全開の「千成屋コーヒー」、昭和35(1960)年築の店舗がそのまま使われている。シチューうどんの食後にでもどうぞ。大阪府章のモデルにもなっている「千成ひょうたん」が店のシンボルだ。
ジャンジャン横丁を南へ抜け、JRの高架下を過ぎると、そこから先は西成区。動物園前商店街や飛田本通商店街など、ジャンジャン横丁以上に濃密な空間が迫る魔の領域だ。勇気があれば、そこまで足を伸ばしてみる価値もあるだろう。