【高齢化率50%超】震災復興で生まれた大規模団地「HAT神戸」の憂鬱

神戸市

1995年1月17日午前5時46分発生、死者数6,434人を数えた「阪神・淡路大震災」から今日で24年を迎える。最も被害が出た神戸市においても、毎年市内各地で行われていた追悼行事が参加者の高齢化などで次々と取りやめになるなど、震災の風化が極まる昨今である。


神戸市の中心市街地である三宮にも程近い、神戸市中央区脇浜海岸通および隣接する灘区摩耶海岸通の一帯に広がる、高層住宅ばかりが立ち並ぶ再開発地区「HAT神戸」。計画人口約2万人という一大プロジェクトで、震災復興事業の要となった地区だ。端から端まで東西2キロくらいある、かなりの規模だ。

あの阪神・淡路大震災から生まれた、神戸市の新たな再開発地区

この土地はかつて大正時代から続く神戸製鋼所と川崎製鉄の敷地だったが、震災により製鉄工場が壊滅的被害を受け操業停止になる。その後、中心市街地にも近い立地であることからこの場所に製鉄工場を再興させず、その代わりに震災で家を失った被災者に対する復興住宅を中心とした住宅地域として作り直された場所である。

このHAT神戸、実際に訪れてみれば分かるが三宮駅から東に1キロしか離れていない、都心に隣接する超好立地。首都圏に置き換えれば、横浜駅とみなとみらい21地区の関係性とクリソツなのであるが、みなとみらいのキラキラ感と比べるとどうもこちらHAT神戸は陰気臭さが拭えない。 やはり震災復興という“マイナスからのスタート”がそもそものきっかけという点が違いにはあるのだろうが、見た目には洒落たキレイなマンションが目立つ割には活気に乏しい。

三宮から近い割にはイケてない…と悪評が絶えないのがHAT神戸へのアクセス方法。JRか阪神電車で三宮から各停電車でひと駅ふた駅乗って、JR灘駅もしくは阪神春日野道・岩屋のどちらかで降りて歩くか、この通り市バスで来るかの二択である。赤字路線とつくづく不評の市営地下鉄海岸線も当初この場所まで延伸される構想があったというが、実現の兆しはない。

ハーバーランドとは異なり観光客が闊歩したくなるような目玉施設もろくにないHAT神戸だが、しかしハコモノ関連だけはやたらと豪華極まりない。 HAT神戸の目抜き通りに続々そびえるのは兵庫県立美術館、JICA関西(独立行政法人国際協力機構関西センター)、 その隣には全面ガラス張りのごっつい建物、何だろうと思ったら…

「人と防災未来センター」という“阪神・淡路大震災の経験と教訓を後世に伝える”ための施設だった。兵庫県の構想で建設が進められたが、あの震災が国家レベルの大災害であった事から、建設費用から運営費までの半分を国が拠出している。HAT神戸という再開発地区における震災復興の意味合いの強さを感じるランドマークである。

その建物の目の前にあるのが「HAT神戸中央」交差点。HAT神戸の「HAT」というのも帽子か?と突っ込みたくもなるセンスだが、“Happy Active Town”の頭文字らしいですこれ。神戸駅そばのハーバーランドと並ぶ臨海副都心といった立ち位置らしい。

さらに交差点の角には「ブルメールHAT神戸」という商業施設もある。東西に広範囲に高層住宅が立ち並ぶHAT神戸だが、まともな商業施設はここくらいしかない。関西スーパーが入っている他、必要最低限の店舗は揃っているが、なぜか千葉県柏市に本社のある激安衣料店「サンキ」が入居しているあたり、客層の低所得者層の多さが伺える。

HAT神戸は中央区側(脇浜海岸通)と灘区側(摩耶海岸通)に分かれているが、それぞれ北側にUR賃貸住宅と県営・市営住宅が、南側には民間分譲マンションなどが整備されている。中央区側の「HAT神戸・脇の浜」と称する住宅群、18棟あるうちの10棟が市営住宅だ。


まだここいらなら三宮にも歩いて行ける程近いので傍目には生活しやすそうに思うのだが、阪神高速を挟んだ先の生田川の市営住宅群などコアな地域も隣り合っていて、下町属性に免疫のない人間が住むには厳しい。

高層住宅の下の階には「特別養護老人ホーム」が入居している箇所もチラホラある。24年前の震災で家を失った被災者がそのまま高齢化して他に行くアテも無くなると、確かに必要になる施設ではある。

HAT神戸には小学校と中学校も一つずつある。「神戸市立なぎさ小学校」および「神戸市立渚中学校」。市営住宅の非常に多いお土地柄だが、公立学校が荒れているという噂はあまり聞かない。市営住宅には高齢者が多い反面、民間分譲マンションに暮らすファミリー層の割合が多いためだろうか。

そんな小学校の隣には「サンシティタワー神戸」という建物が。立派にタワマンなんかもそびえていますよ…と思ったのだが、これはどうも普通の分譲マンションではなくタワー型の「介護付有料老人ホーム」らしい。入居費用や月々の管理費の高さからしても、このへんの市営住宅暮らしの独居老人が到底入居できるような場所ではない。

高齢者の姿しかない復興住宅の現実「HAT神戸・灘の浜」

HAT神戸のうち、灘区側に属する「HAT神戸・灘の浜」を訪れる。阪神岩屋駅が最寄りの一画だが、このうち「1番館」「2番館」と称する建物はそれぞれ31階建てと33階建てのタワーマンションである。分譲マンションかと思いきや、これもUR賃貸住宅。しかも階下にはダイエーグルメシティもございますよ。

タワマンがURで月々10万ちょいの家賃で入れるというのは首都圏の社畜リーマンの金銭感覚からすれば信じられないだろうが、住民の質が良いとは限らない。この1号館の最上階、31階から度々ゴミ袋やガラス瓶など物を投げ落としていたとして住民(43歳無職女)が2018年末に逮捕されている。しかし何だよ、この悪趣味な巨大オブジェは…

タワマンがある1~3、10~13号棟の7棟はUR賃貸住宅だが、その他は市営および県営住宅。しかし公営住宅となっている住居棟もURから20年間の期限で借り上げる形で「復興住宅」として被災民を受け入れているもので、この期限が過ぎたことで住民が退去を求められるなどのトラブルも起きているらしい。

海千山千の公営住宅ウォッチャーである当方の目で見ても、正直どれがURでどれが県営でどれが市営なのかさっぱり見分けもつきません。神戸市営なら市章のマークが建物にドーンと掲げられてますけれども、URからの借り上げ復興住宅という事情ですからね…

ああ、こっち側も団地の一部が特別養護老人ホームになっとりますわね。その入口には物々しく張り紙が。「市営住宅の関係者は使用禁止」「無断で立ち入った場合は警察に通報します」云々、警戒感ハンパない。今まで散々市営住宅の住民と揉めてきたんでしょうかね。

そんな市営住宅の敷地に不法耕作が目立つ“いつもの光景”もHAT神戸では見られるのですが、お年寄りのささやかな楽しみにケチを付けるのは野暮でございましょうか。

こうして歩き回っている間にも市営住宅の住民と思しきお年寄りが一人でとぼとぼ歩いている姿を見かけられる。無骨なコンクリートジャングルとなった「復興住宅」が終の棲家となる人々の数は決して少なくはない。

HAT神戸・灘の浜にある特別養護老人ホーム「ハピータウンKOBE」のホームページによれば「HAT神戸灘の浜地区は、高齢化率が50%を越える街となっております」とのこと。少子高齢社会で人口減少し始めている神戸市全体で見ても、この水準は相当高いと言えよう。

兵庫県内の災害復興住宅において、去年2018年中に「孤独死」をした人数は70人。この閉ざされた生活空間の中で、誰にも看取られず消えゆく命がある。


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