京街道・橋本遊郭跡を訪ねる (1) やをりき食堂

大阪から京都へ抜ける「京街道」、この街道に概ね沿った形で走っているのが現在の京阪本線だが、ちょうど大阪府と京都府の境目にある「橋本駅」の真ん前に物凄い規模で遊郭建築が残っているという話を聞き、一度訪れたいと思っていたが先日念願が叶った。
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京阪電車橋本駅は特急停車駅である樟葉駅の一つ先、石清水八幡宮のある八幡市駅の一つ手前にある鄙びたローカル駅である。
橋本は男山山麓、淀川を前にした狭い陸地に広がる集落で、奈良時代(神亀年代)に行基が架けた「山崎橋」のたもと、というのが橋本の地名の謂れとなっているが、その橋は淀川の度重なる氾濫で流され存在せず、後に渡船場が置かれ石清水八幡宮への参拝客で賑わった。
和歌山や神奈川や福岡にも同じ名前の橋本駅がいくつもあるので紛らわしいが、高野山にも行けないし相模線にも七隈線にも乗り換え出来ません。他地方の方はお気をつけ下さい。そして駅を降りたら、人っ子一人おりません。


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大阪方面改札口を降りた真ん前に西遊寺という立派な寺の山門が控えている。西遊寺は幕末の戊辰戦争時に土方歳三ら新選組の隊士を含む幕府軍の弾薬庫として使われた事がある場所。いかにもな場所にあるので遊女の投げ込み寺かと思ったが、結局よく分からない。
橋本は昭和33(1958)年の売防法施行まではかなり巨大な遊郭だったと聞く。石清水八幡宮への参拝者にとって精進落としの遊里としてさぞ栄えたそうな。枚方宿と淀宿の間にあり、ここも宿場町だったという話もあるが公式に認められたものではなく、どうやら江戸で言う所の内藤新宿のように、端から遊郭を作る目的で宿場町を置いたとの話もある。
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駅改札口正面にも古い石碑がある。橋本渡舟場三丁、などと書かれている。昔、淀川対岸の山崎と橋本を結んでいた渡し船の道標だ。売防法施行によって橋本遊郭が廃止された後の昭和37(1962)年にこの渡し船も廃止されている。わざわざ川を渡って遊びに行く必要もなくなったからだろう。
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そのまま大阪方面に線路沿いに歩いて行くと、駅前だというのに信じられないくらい廃墟と化した家が多い。それは遊郭としての歴史があるからだろうか、この建物も妓楼のそれを思わせる造りとなっているが現在は個人宅だ。
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このような廃墟が駅前徒歩0分圏内にわんさか残っている。枯れ草が伸びきって建物全体を覆い尽くそうとしているかのようだ。
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玄関の開き戸が開いたままになった商店と思われる廃墟。ホームレスが紛れ込んでもこりゃ気付かないだろうな。その気になればここから通勤出来そうだが不法侵入になるのでよいこの皆さんはやめましょう。
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その先にはレトロなフォントがイカス四区公会堂の建物。ここを終端に家並みが途絶えている。ひとまず戻るしかなかろう。
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かつて隆盛を極めた橋本遊郭が残る街並みは京阪本線の線路を跨いだ淀川方面にある。ひとまず大阪方面のホームから来たら踏切を跨いで反対側へ。
通勤時間帯には開かずの踏切となるらしく近隣の地下道へ迂回を促す掲示板が貼りつけられている。遊郭だった時代にも世を儚んだ遊女の自殺が絶えず陰鬱な歴史の佇む街だが、鉄道に飛び込むのはイクナイ。
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ただもうひたすら鄙びきって終わコン状態の駅前風景を横目に線路脇の狭い路地を抜けると橋本遊郭の名残りとなる風景がそこかしこに見られる。
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まず駅舎の真向かいの角にそびえる2階建ての食堂兼住居。「やをりき食堂」という橋本駅前にたたずむ唯一の食堂は橋本遊郭時代からの生き残り。昔は食堂も30軒くらいあったんだとか。そして妓楼の数は最盛期には80軒以上もあり、遊びに訪れる男どもと遊女達が街に溢れ肩が触れ合う程だったと。
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やをりき食堂の外観は手直しされていて見た目はそれほどでもないが玄関付近は昔の面影を残している。残念なのは正月休み中で店が開いて無かった事だ。まあしょうがないわな。
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「アサヒスタイニー 洋食の店 やをりき」
アサヒスタイニーとは昭和39(1964)年にアサヒビールが発売した瓶ビールの商品名。でも昭和39年だと遊郭が閉鎖された後だな。
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京都方面ホームからも見える家並みの古さと路地の狭さは特筆に値するものだが橋本遊郭の本領はまだまだこんなものではない。まだまだ路地を突き進め。

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