街道筋に沿って橋本遊郭の南半分を見てきたので、次は北半分、京都方面を見ていくことにする。住所も南半分が八幡市橋本小金川、北半分が橋本中ノ町に分かれている。
随分取り壊された家も多いし改装されたり建て替えられたりで、やっぱり半世紀経つとしょうがないかな…と思う訳だが、よく見ると街道沿いの家並みも、2階部分がそのまま妓楼時代の手すりや装飾が残っている。
近づいて建物を見たらやっぱり元遊郭の風情が凄まじい。ちなみに京街道には枚方宿にも遊郭(桜新地)があったが、京阪枚方公園駅に近い立地もあって宅地開発が進んでしまい風情は損なわれている。
少し歩くとすぐ左手にこれまた綺麗に残された妓楼が立ち尽くしている。玄関ドア以外は殆ど当時のままである。1階の欄間飾りや格子窓もしっかり保存されている。
西日に当たって反射する2階の窓ガラスの意匠も美しい。
橋本遊郭は文化財として保護されている訳でもないのにこれだけ綺麗に残されているというのもある意味珍しくないだろうか。遊郭であったという後ろめたさよりも、文化として街並みを守り抜きたいという住民の意思が働かなければ難しい事だと思う。
現にこれだけの妓楼が荒れずにきっちり現役で使われているのだから大したものだ。でも住民がそのうち居なくなれば、あっけなく取り壊されてしまうであろうという恐れもある。
各戸の玄関先を見ても、ゴミひとつ落ちておらず、プランターの鉢植えをさりげなく置いていたりする所なんか、心の余裕すら感じられる。
我々取材班も全国でこうした遊郭跡を見てきたが、荒廃したまま見て見ぬふりされた廃墟のような場所だらけだった。遊郭としての歴史を忘れたいと住民が存在自体を拒絶するかのように。そういう意味で橋本は奇跡のような遊郭跡であると言える。
遊郭廃止後かなり早い時期に美容室か散髪屋かに改装された元妓楼の1階部分。ものすごく年代を感じさせる店構えだが、どうも営業していない模様。
その隣の玄関口。下半分の壁が空色のタイル貼りになっていていかにも妓楼といった趣きだが、ちょっと荒れ始めている印象がある。
で、その隣にあるちょっと間口の狭い妓楼。この建物の装飾は特に豪華絢爛で存在感が一歩抜きん出ている。
まず玄関周り。足元のタイル加えに外壁に嵌め込まれたエメラルドグリーンのタイル、格子窓の形も煉瓦積みのような格好で変わっている。あと欄間飾りと天井から釣り下げられた灯りもそのまま。これはハイクオリティな妓楼ですね。
詳しい資料がないのでいつ頃建設されたものかよく分からないのだが、月並みな表現をすると、まるで時代劇のセットみたいな趣きがある。そりゃ江戸時代からあった遊郭だからなあ。
ちなみに1982年に映画公開された「鬼龍院花子の生涯」の撮影ロケ地がここ橋本だったらしい。主演は今は亡き女優、夏目雅子。
そのロケがあった頃から比べると橋本遊郭の様子はやはり相当変わってしまったようだが、あと数十年したらこうした建物も全部取り壊されてしまうのだろうか。人の死もあっけないものだが、役目を失った遊郭の灯もまた儚いものである。