【浪速区】太鼓と人権の街に変化が…意識高い系仕様「芦原橋アップマーケット」を見てきた

大阪には様々なマイノリティにまつわる問題がある。在日コリアンの問題もそうだが、古い身分制度に基づいた被差別部落をルーツに持つ地域があり、それにまつわる同和問題も依然として根深い。特に大阪市内各所には旧同和地区として市営住宅や公共施設が集中的に整備されてきた地域があって、その多くは住民が高齢化したり、または地域に向けられた偏見を避けるべく新しい住民が来ないなどして、概ね陰気臭いくらいにゴーストタウン化している。

浪速区にある「芦原橋」も、そうした地域の一つとしてあまりに有名な場所である。旧「渡辺村」としてのルーツを持つ西日本屈指の規模を誇る太鼓や革製品などを扱う皮革産業の街でもある。前回は大阪人権博物館への訪問が目的だったが、それ以来久方ぶりにこの駅を訪れた。昼間は15分に一本やってくる各停車両しか止まらない、ここもまた都心の秘境駅である。

近年、古臭いイメージの強かったJR大阪環状線の駅ナカ改造計画が進行していて、新型車両323系の導入に加えて駅構内も順次リニューアルが進んでいる。芦原橋駅もまた同じように駅名標が新しくなったり、地域性を示すかのように「差別落書をなくしましょう」云々書かれた警告看板もいつの間にか無くなっていたが、相変わらずホームには人の姿がない。

かつてこの地域では大阪市内最大の旧同和地区として多額の公費を掛けて様々な公共施設が建てられてきた一方で、旧芦原病院の巨額の使途不明金問題や「大阪人権博物館」への補助金打ち切りといった数々の同和行政にまつわる出来事が影を落としている。そして同様に駅周辺の街並みが軒並み寂れまくっている地域であるが、近年この街は暗い過去を払拭しようと「ある変化」を見せているというのだ。

芦原橋駅前に大型分譲マンション建設中

その一つとして顕著な変化を見せているのが、芦原橋駅前に大型分譲マンションが絶賛建設中になっている事。かつてこの駅前の通りは同和対策事業で建てられた市営住宅や病院、「解放会館」と称していた地域の公共施設で占められ、さながら北朝鮮や旧ソ連に見られる社会主義国家顔負けのイデオロギッシュな街並みを呈していた。しかしそんな場所にもようやく資本主義の論理が遅まきながら加わろうとしている。

富士林業というデベロッパーが展開する分譲マンション「富士林プラザ13番館」のモデルルーム。この場所には以前「浪速人権文化センター」(旧・浪速同和地区解放会館)が建っていたが、同和対策事業の見直しによって2010年3月で閉鎖された後解体され、現在これが建設中になっている。近年の大阪は都心回帰の傾向から梅田・難波の二大都心エリア周辺にマンション建設ラッシュを迎えているが、ここもその一環であろうか。

大阪環状線の駅前一等地の新築マンションが1LDKで2630万円から、2LDKで3590万円台というお値打ち価格。「難波まで自転車で5分」と書いちゃうところが大阪っぽいのだが、芦原橋駅の使い勝手の悪さを考慮してもコスパが良さげである。本来ならもっと発展しても然るべき土地であるはず。そもそも今までがおかしすぎたのだ。

太鼓と人権の街に“意識高い系”の風が吹く!「芦原橋アップマーケット」

近年の芦原橋エリアを賑わせているイベントがあるというので、一体どんなものか見に行ってきた。毎月第三日曜日に芦原橋駅前で開催されている「芦原橋アップマーケット」である。2013年6月から行われている、かなりオサレ度数の高いフリーマーケット風味なイベントなのだが、これが結構成功しているようで、すっかり定着してしまったらしい。

芦原橋アップマーケットは地元住民が構成する「芦原橋地域再生推進協議会」が立ち上げた「一般社団法人リイド」という団体が企画運営しているイベントだ。普段は寂れきって人通りもなかったはずの、JR芦原橋駅ホーム直下の高架下商店街も、マーケット開催日にはこの通りの賑わいとなる。

アップマーケットの会場となるのは駅ホーム直下の「芦原橋ステーションプラザ」と称する商店街と、その南側にあるタイムズ駐車場、高架ホームの反対側にある「ソルトバレー芦原橋」というイベント会場の計三ヶ所。ステーションプラザ会場では芦原橋地域・旧渡辺村の伝統産業である革製品、または革ハギレといったものも数多く直売されている。

もう一つの「ソルトバレー会場」こと「ソルトバレー芦原橋」。なにわ筋に面した建物入り口が見えるがここだけ場違いなくらいにオサレである。ここも芦原橋アップマーケットの発展に伴い2014年11月になって新しく始めたイベント施設である。玄関前にはチャリンコがズラーリ。

ここは芦原橋アップマーケット開催日に限らず、毎週土日をメインとしたイベント開催日には多くの来客で賑わう。既にちょっとした文化発信基地的な役割も持っている。今までの芦原橋地域にはまず存在しなかったトレンディスポットである。

ソルトバレー会場ではビルの通路を抜けた奥のスペースもまたイベント会場としてシャレオツぶりを発揮している。もはや北摂阪神間のオサレエリアをすっ飛ばして表参道・青山かよと思うようなノリなんですが、ここは紛れもなく大阪市浪速区芦原橋駅前です。

“インスタ映え”しそうなオーガニック風味のお野菜直売所もオープン。ちなみにこの「ソルトバレー芦原橋」、ビルのオーナーが塩谷さんだから“ソルトバレー”というのは安直過ぎて笑えるんですが…

特に三つの会場の中で最大規模となるタイムズ駐車場をまるまる貸し切った「タイムズ会場」がアップマーケットのメイン会場となる。ここでは意識高めなオーガニック食材を使った屋台料理の数々を召し上がりながら地元の太鼓集団による演奏会などを楽しむ事ができ、近年都心回帰の流れで難波周辺の新築マンションに引っ越してきた、所得の高く若いファミリー世帯が集まっている模様である。

とにかくオサレ過ぎて芦原橋のイメージが激変している件

芦原橋アップマーケットが成功しているというのは、現地の様子を見てひと目で理解できた。とにかくオサレでイマドキな感じで統一されているのである。これまでの大阪的デフォルトなバッタモン臭いコナモン屋台やヤクザやヤカラ風味の「出店」のイメージとは全く異なる。この場所だけまるで東京にあるような、代々木公園か木場公園あたりでやりそうな意識高い系イベントの空間そのものとなっている。

アップマーケットに出店しているのは決してイカニモ大阪的な焼きそばやお好み焼、たこ焼の屋台などではない。ワインに自家製サングリア、肉料理にガーリックトーストといった「バル」的な趣きが強い。

ビールだってカールスバーグなどの洋モノを置いていたり、または「箕面ビール」などの地元大阪産クラフトビールという、ちょっとこだわりの入ったメニューが用意されている。ミナミの新築マンションに住める高所得者層が満足する、意識高いめな青空市となっているのだ。

その他、無農薬玄米を使ったカレーだの、フェアトレードなコーヒーだの、売られているものがいちいち“意識高い系”の消費者心理をくすぐるような一品ばかり。普通にあれこれ飲み食いすれば2000円くらいすぐに飛んでしまうが、東京でやるような意識高い系オーガニックフードイベントではもっとボッタクっているので、芦原橋はすごく良心的に見えてしまう。

しかしその一方では「芦原橋ソウルフード」と称して、大阪の被差別部落で昔から食されていた牛の腸を揚げた「あぶらかす」を使った「かすうどん」も堂々販売中。ここだけローカル感溢れる下町おばちゃん軍団が仕切ってます。一杯500円也。

ちっとも“インスタ映え”しそうにない食材ばかり選んで食ってますが…かすうどん、ホルモンそば、オーガニックでコリアン風味なトックスープ、チキンとフランクフルトの詰め合わせ…という昼飯でございました。

かつての陰気臭い旧同和地区のイメージを吹き飛ばすかのように盛況を呈している「芦原橋アップマーケット」、基本的に雨天中止なので天候には要注意のイベントだが、時々なんばパークスでも出張イベントを行っている。

昔の荒れていた街の姿を知っている人間の身からすれば、十年一昔、あの芦原橋がよくぞここまで変わったなと感心させられた。まあ、月一回しかやってないんだけども。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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