周囲を運河や海に囲まれた大正区の最奥部に位置する「鶴町」…市バスしか公共交通機関もなく、せいぜい他所の人間がここを訪れる動機はIKEAくらいしかない。交通不便極まりないこんな土地に未だに8000人近い人々が暮らしているが、その大半が市営住宅に入居している。
今回はこちら大正区鶴町がいかに市営住宅だらけの街なのかを観察する。なみはや大橋が架かっている「鶴浜埋立地」側からやってくると、IKEA鶴浜の東隣にのっけからでかい団地がそびえているのが見える。「市営鶴町第9住宅1号館」である。
鶴浜埋立地という負の遺産と真新しい市営住宅
この高層団地が建てられたのは僅か5年前の2013年である。元々この団地から海側は90~00年代に埋め立てられたばかりで、海岸線だったはずの場所だ。昔の地名で言う「鶴浜通」に属する土地である。
「IKEA鶴浜」建設前の鶴浜埋立地。当初はホームセンタームサシが開業予定だった。2005年撮影
IKEAが2008年に開業する以前、この鶴浜埋立地は造成後長らく空き地のままで放置され無駄な公共事業の一つとして槍玉に挙げられていた場所である。まだバブル期の余韻が残っており大阪ベイエリアの乱開発が進められていた時代、天保山に建設された「海遊館」に続いて、熱帯雨林のテーマパーク「陸遊館」なるものをこの地にぶっ建てようと計画されていたのが頓挫した、という経緯がある。
結果、大型店舗の誘致が進められたにも関わらず、一旦は名乗り出てきたアークランドサカモト(ホームセンタームサシを経営)が店舗の建設を断念。一部の赤い政党がらみのサイトで「大型店の進出で街が死ぬ」云々書いているページが見られるが、そんなお節介を焼かずともこの地域は既に瀕死である。
市営住宅だらけの街
しかし陸の孤島状態の鶴町住民からすると陸遊館だのIKEAだのができるよりも大型スーパーが出来てくれた方が助かるに決まってる。あと10年早かったら大黒天物産が名乗りあげて激安底辺スーパー「ラ・ムー」をぶっ建てて市営住宅の住民に熱狂的な支持を得ていたであろう。ところで市営鶴町第9住宅の隣には「鶴町第七住宅」がある。
第七住宅は港区側にある市営築港住宅や八幡屋第二~第四住宅などと同じ面構えの量産型中層団地である。エレベーター無しなので4・5階の部屋に当たると老後が辛い仕様なのは言うまでもない。航空写真を見たところ既に昭和50(1975)年以前から建っている。
第七住宅から鶴町南公園を挟んだ東側にも「市営鶴町第二住宅」が。こちらも5階建てのエレベーター無し仕様。第七が3棟、第二は11棟ある。
こちらの方が建築年代が若干古いようで、ベランダ部分は明らかに後付的に増築されたものである。元々風呂なし住居で、増築部分に浴室が設けられるケースが多い。
郵便配達員の便宜を図っているのだろうが、個人情報の保護がうるさくなった今の時代では考えられない、市営住宅の「入居者名簿一覧表」が団地の入口に張り出されている件。大正区という土地柄だけにちょいちょい沖縄の苗字のお方を見かけます。
これだけ大規模な市営住宅群が広がっているにも関わらず、相変わらず子供の姿を見る事がない。第二住宅の一角にある児童公園も人っ子一人見かけない。
しかしこういう光景を見ると「アチャー」と言いたくなること請け合いでして、チャリンコやバイクを壊したり改造したりして遊ぶDQNが一定数生息している形跡を伺わせる。大正区では珍しい光景ではございません。
それに負けじと迫力を見せつける団地の向かいの串焼き居酒屋が所有していると思しきエアロバキバキ状態の壊れたスポーツカー、もはや店を宣伝するための置物と化しているようである。事故で全損しちゃいましたかね。
第二住宅を出て大運橋方面に大正通を進んでいくと今度はドピンクな外観の7階建ての団地が姿を現す。ここもやはり市営住宅「鶴町第8住宅」。さすがにこれはエレベーター付きであろう。ここならバス停も目の前にあるので、鶴町の市営住宅群の中では割と「当たり」物件か。
第8住宅自治会より「変質者に女性の皆様御用心して下さい」。なぜ女性に限られるのだろうか。男性だって狙われる事もあるはずなのに。治安は総じて宜しくありません。だって大阪ベイエリアだもの。ところでまだまだ鶴町にはまだまだ見どころの多い市営住宅がある。レポが長くなりすぎそうなので、続きは次回で。