新興宗教百花繚乱な日本各地の都市には様々特徴あれど「宗教団体」を中心に街が成り立っているというような場所はそれほど多くはない。某三色旗教団の本拠地である東京・信濃町を一例に挙げてみても、宗教団体は街の異質な存在として教団外の、とりわけ旧来の地元民に違和感を持たれどうしても土地に溶け込む事はない。
しかし天理教教会本部がある奈良県天理市を訪れると街と宗教がまさに渾然一体となっている様子が見られる。だって街の名前が宗教団体の名前になってるんだもん。こういう自治体は全国探しても天理市以外にはないんだそうだ。
昭和29(1954)年の市制施行時に新市名を「天理市」に決めた時にも宗教団体の名前を地名にする事に異議が出てあれこれ揉めたらしいが、結局慣れれば大した事ないようで。もっとも教団側は「山辺市」を推薦していたそうだが。ちなみに天理市になる前は丹波市町だった。
天理教は新宗教の中でも江戸時代末期から続く歴史のある宗教団体という事もあるが、天理市が「宗教都市」と呼ばれる訳は街を一度訪れると分かるはずだ。
今回幸いにもどっぷり時間を取って天理の街を見られる機会があったので、大阪から西名阪自動車道を使ってやってきましたよ。
先ず西名阪自動車道天理インターを降りて天理市街地に向かう途中に「詰所」なる施設を示す案内看板が現れる。詰所とは全国各地から天理を訪れた信者が宿泊する施設である。網走詰所など地名が冠に付いている。
天理教信者の宿泊施設「網走詰所」の外観。3階建てで結構な大きさのある建物。かなりの収容人数があるが、こうした詰所が天理教本部を中心に250ヶ所近く存在するそうだ。
たまたま天理教の法被を着た信者が隣の郵便局に出入りしている姿が見られたのだが、街を見ると法被を着て出歩いている人を結構目撃する。この街を歩いていると人々の日常生活にすっかり天理教が溶け込んでいる様子が見られる事だろう。
本当に街中至る所に天理教の詰所がある。これだけあって採算が取れているのだろうかと気になるのだが、教団行事の時に全国から信者が集まる場合を想定してキャパシティが取られているので、普段はやはり利用率が少ない模様。
ちなみに詰所には、事前に詰所の所属教会に連絡すれば信者以外でも宿泊利用可能(素泊まり1名1000円、食事一食250円、要身分証明)だそうだ(→詳細)。天理を旅行した時には宿泊に詰所を利用するのも良いかも知れない。
天理インターから国道169号線を南下すると天理市街地。天理教本部に差し掛かると現れるのは千鳥破風の大屋根を持つ、城塞のような趣きのコンクリート建築。
これは「おやさとやかた」と呼ばれる宗教都市天理を象徴する建築物の一角。天理教本部の神殿・教祖殿を中心に取り囲むように周囲約3.5キロに渡ってまるで城塞のように建設されていく予定。現在はその一部が完成しているのみだ。
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航空写真で見てみると「おやさとやかた」の全貌とその凄さが何となく伝わるだろう。
これを見て宗教都市と言わずに何と言うのか。凄まじき宗教パワーにあんぐり。
巨大建築物「おやさとやかた」は当たり前だが全て天理教関連の学校や病院、それに詰所といった施設が入っている。建物の外観は全て統一され、千鳥破風の屋根に赤い窓枠、橋の欄干のようなバルコニーの手すり、さらに1階~2階部分は吹き抜けになっていることも多く、生活道路や川の上を建物が跨いでいる事もある。
よって建物だけ見ていても何の施設なのか部外者にはさっぱり区別がつかないという難点も。これは天理教関連の「天理よろづ相談所病院」(財団法人よろづ相談所・憩いの家が運営)。
他の新興宗教団体の施設に比べると天理教本部への立ち入りは自由で、守衛を通したり記帳したり事前に許可を取るといった煩わしい手間は一切必要ない。信者以外でもそのまま中に入れてしまう。参拝者駐車場から神殿に続く道には大量に飾られた提灯が連なる。
日本はもとより世界中の天理教教会の名が書かれた提灯、数え切れない程の膨大な提灯が聖地への道筋を示していた。まさにここは天理教の中心なのだ。
教団内では天理教教会本部を天理教発祥の地、全人類の故郷、創造の地として「おぢば」と呼んでいる。おぢばに参拝することを「おぢばがえり」と言う。天理市内で「ようこそおかえり」などと書かれているのはこの為だ。
急におかえりとか言われても困惑するだけだが、どうやらここが人類の故郷らしい。
しかし信者でなくともこの膨大な提灯の嵐や「おやさとやかた」の建物群を初めて見ると驚きを隠せないだろう。それと同時にこの場が放つ独特のオーラに圧倒されてしまう。ここが人類の故郷だと言われても妙に納得出来てしまいそうだ。
そしてその先には天理教教会本部「おぢば」が鎮座する神殿の建物が見えてくる。
ひときわ強烈な存在感を放つ神殿はやはり豪勢な日本建築である。
世界各地からこの地を目指して天理教信者が訪れる。
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