なみはや大橋やIKEAが出来ても何にも変わり映えしない「大正区鶴町」の寂しい街並み

大阪市24区の中で最も公共交通機関の整備が遅れている「大正区」。未だに鉄道駅は区の北端部にあるJR大阪環状線および地下鉄長堀鶴見緑地線大正駅のみで、未だに区内の交通は市バスに依存しているという地域。この中で最も行きづらいのが、区内南部にある「鶴町」地区である。

鶴町地区は戦後の復興計画で作られた大正内港によって対岸の北恩加島側と分断され、区内を行き来するには地区の南側で唯一繋がっている大運橋を経由して大回りする必要がある。そのため長らく陸の孤島だった場所だったが、1995年に開通した「なみはや大橋」を経由して港区側からアクセスできるようになった。2003年には千歳橋も開通し、区内本体とのアクセスルートが2つに増えている。

IKEAが出来て鼻が高いようですが周りは何もありません

なみはや大橋を降りるとそこには「IKEA鶴浜」があり、その隣には真新しく建てられた市営住宅の高層棟がそびえる。IKEAは2008年8月にオープンして既に10年が経過している。「北欧デザイン」というキーワードだけでまあステキと思考停止状態になる意識高い系のオシャレさん御用達家具屋がなぜこんな行き遅れた都会の端っこの埋立地を出店場所に選んだのか?と開店当初は頭を捻らせたものだが、なんだかんだ言っても既にこの地に定着している。

ちなみにIKEAの隣には「東京インテリア家具」が2017年にオープン、家具の街・堀江を脅かす超大型家具チェーン密集地帯にでも変貌するのだろうか、知りませんけども。

大阪シティバスが無ければ生きていけない鶴町住民です

そんな大正区のどん詰まりタウン鶴町へ行くには今でも市バス改め大阪シティバスが唯一のアクセス手段である。大正駅から数分おきに頻発している他、今では天保山方面からも鶴町四丁目行きの路線がある。しかし大正駅までは25分、その先の難波まで40分、梅田まで1時間掛かるという利便性の悪さは解消しそうもない。

終点の鶴町四丁目バス停で乗客は全員降ろされる羽目になる。大正駅から延々と続く大正通もアルファベットの「J」の字を描く形でこの付近が終端部となっている。とりあえずバス停を降りるとのっけから市営住宅が並んでいて正体不明の露店が暇そうに商売をしている光景が目につく。

バス停の先には大阪シティバス鶴町営業所が市営住宅に取り囲まれる形であり、かなりの数のバス車両が連なっているのが見られるが、どれもこれもラッピング広告がパチンコ屋のものばかりというのが酷い。これが大阪クオリティか。

2018年3月末日をもって解体された大阪市交通局からバス事業を引き継いだ「大阪シティバス」。実はこの会社自体は昭和63(1988)年からあり、一部の市バス事業所の業務委託やバス路線の運行を行っていた。前身となる大阪運輸振興株式会社は大阪市交通局に加えて「大阪交通労働組合」(通称・大交)との共同出資で設立された、というところがまた奇妙である。

陸の孤島状態の鶴浜埋立地にあるIKEAの店舗と梅田・大正・難波の各駅を直通しているIKEAカラー全開のシャトルバスも、大阪シティバスが運行する車両。本来の買い物客ばかりでなく鶴町住民の救世主になっている感がある。

他の路線バス同様片道210円の運賃が掛かるが、バス利用者は次回来店時に2000円以上の買い物で利用可能な500円クーポンをもらえる特典が付いているゆえ、移動費をケチってIKEAバスで梅田や難波に直行して、帰りにIKEAでやっすい食器や雑貨を買って帰る鶴町住民が一定数いるものとみられる。

人っ子一人居ない鶴町中央公園

また終点の一つ手前、鶴町三丁目バス停で降りると目の前に広がる「鶴町中央公園」。陸の孤島である鶴町住まいの子供にとっては数少ない貴重な遊び場であり、この周囲には市立鶴町小学校、鶴町商店会などがある。あえて地区の中心がどこかと言えばこの場所だろう。しかし子供どころか人っ子一人居ませんよ。大丈夫ですかこの地区は…

鶴町中央公園の中にはこの土地の地名の由来などが記されている案内板がある。明治30(1897)年から昭和3(1928)年までの大阪市の築港計画による埋め立てによって造成され、とある。昭和の時代に室戸台風やジェーン台風による高潮被害を受けて大正内港が作られ、掘削工事で出た土砂で区全体を盛り土して嵩上げを図ったのである。ちなみに隣の港区でも安治川を掘削するなどして戦後同じような公共事業が進められた。

公園内のトイレも身障者用入口がベニヤ板で塞がれ使用不能になっている。屋根の部分もよく見れば損壊しているのが確認できる。DQNに壊されたのか台風に壊されたのか知りませんけども。ヤンキーの多さと教育レベルは東京で言う足立区とどっこいどっこいです。

地下鉄延伸を待ちわびる大正区の最果て陸の孤島唯一のお買い物スポット「鶴町商店会」

大正通が直角に折れ曲がる鶴町南公園前交差点近くから南北に伸びる「鶴町商店会」がこの地域唯一の商店街らしき場所である。なみはや大橋が開通してIKEAが出来ても、ここが再び活気を取り戻す、というイメージは湧きづらい。

三軒家・泉尾・平尾にそれぞれあるような立派なアーケード街があるわけでもなく、全長100メートルくらいの小規模な商店街となっていて、案の定、通行く人はおしなべて高齢者ばかり。

鶴町には一丁目から五丁目があり、そのうち五丁目は運河で隔てられて「福町」と呼ばれていた地域で工業地帯となっているが、残りの地域に大正区の人口のうち8分の1の約8000人が暮らしている。その住民の生活を支えているはずの商店街だが、人通りの少なさが気になる。

現在、大正駅で寸止めとなっている地下鉄長堀鶴見緑地線、本来はこの鶴町まで延伸させる計画があるのだが、1997年の同線全線開通以降20年以上が経過した今でも未だ実現には至っていない。開業以来地下鉄全線のうち同線がワーストで赤字続きなことに加え、今なお厳しい大阪市の財政問題や交通需要が見込めない事もその理由であろう。

大阪市内の、というよりも、過疎化が進む地方都市の旧市街地のそれを思わせるような光景を見せる鶴町の商店街。近所にIKEAやら何やら新しいものが出来ても、海遊館のある港区、USJのある此花区と同じで、旧来の街に経済効果が波及するといった事はなかなか起こらないのが現実といったところか。

鶴町商店会の中心的存在である「Freshつるまち」…いわゆる「公設市場」というやつである。食品館アプロというスーパーが入居していて地元民の食料品調達先として重宝がられている。ちなみにこの建物の上層階は「UR都市機構鶴町アパート」。昭和43(1968)年築で既に半世紀オーバーのヴィンテージ団地である。

IKEAのレストランでスウェーデン料理が身近になった鶴町住民も神戸や芦屋で見かける意識高い系のパン屋には今なお無縁である。鶴町唯一のパン屋「パムパムベーカリー」、まさに街の土着パン屋といった佇まい。ぱみゅぱみゅではない。

商店街に近い大正通沿いに「平和堂」という一軒の和菓子屋がぽつんと営業している。鶴町住民にとって平和堂と聞けば滋賀県の大手スーパーではなく、この和菓子屋を指すのである。

鶴町の和菓子屋さんで出している誰も知らない大阪銘菓「第五回名誉金賞受賞 なみはや大橋まんじゅう」…何の名誉金賞だか知りませんが、まだ“モンドセレクション”じゃないだけマシですかね。よほどあの橋が出来て嬉しかったのかも知れない鶴町住民だが、やはりこの街は昭和の感覚のまんま、この先も変わる事もなさそうである。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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