アパッチ族の末裔を訪ねて…桜ノ宮駅前大川沿いの不法占拠物件「龍王宮」

2007年2月7日、通勤ラッシュど真ん中の午後5時半過ぎ、大阪の大動脈「JR大阪環状線」が2時間に渡って運行をストップした。

JR桜ノ宮駅すぐ近くの、大川に架かる鉄橋のたもとの、廃品回収業者の廃材置き場からの火災が原因だった。火災は通勤客98000人に影響をもたらした。

実は12年前にも同じ場所で火災が起き、大阪環状線の運転がストップしたことがあるという。
2度にわたる火災、河川管理を行う大阪府西大阪治水事務所は、なぜこの業者を立ち退かせることができなかったのか。そしてこの「廃品回収業者」の土地が、実は不法占拠の在日朝鮮人の土地だったということが判明したのだ。

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終戦直後の大阪城周辺には、「大阪砲兵工廠」跡地に忍び込み、夜な夜な金属を盗み出しては業者に売りさばき生活の糧にしていた「アパッチ族」と呼ばれる、在日朝鮮人を中心とした人々が生活していた。それらの末裔と思われる住民が、今でも金属や廃品を回収するなどの生業でひそかに暮らしているのだ。

テレビで伝えられた、桜ノ宮鉄橋の真下を不法占拠する住民の家が映し出された時は、驚愕した。まだ大阪には、「戦後」から時を止めたまま澱の様に淀んだ空間が存在する。

そんな桜ノ宮の駅は、大阪駅からJR大阪環状線でわずか2駅。梅田にこれだけ近い駅なのに、凄まじく田舎臭い駅構内にギャップを感じる。乗降客の数も、芦原橋、今宮の次に少ない駅だったはずだ。


問題の火災現場は、桜ノ宮駅のまん前、毛馬桜之宮公園の敷地内にある。
大川は旧淀川だった川で、明治時代の大水害を契機に河川の氾濫を防ぐため、現在の淀川が改修されて今に至る。

毛馬桜之宮公園は大阪を代表する桜の名所。

淀川との分流地点である毛馬洗堰から天満橋までの4.2キロの区間にソメイヨシノ4700本が植えられた河川公園。大川を挟んだ向かいの北区側にも公園が整備されていて、春に行われる大川の桜祭りの時期には両岸に植えられた桜並木が一斉にライトアップされて、夥しい数の出店が立ち並ぶ、大阪の春の風物詩にもなる場所なのだ。

普段はこのようにジョギングしやすい道が整備されており、近所の住民が気軽に汗を流す場所としても使われている。

夏には、これまた大阪の夏の風物詩である「天神祭」におけるクライマックス行事「船渡御」が行われ、大川の上を無数の電飾をつけた船が通り過ぎ、同時に花火大会も開催され、毎年人が歩けないくらいの大混雑を見せる。
大川沿いはそういった場所だったりするのだが、関西以外では有名ではない。地元ではテレビ大阪が生中継をするほどの大規模な祭りであるが。

公園の管理者は大阪市だが、河川の管理は大阪府西大阪治水事務所。
さすがに不法占拠のものだとしても他人様の土地に踏み込むほど度胸はないので敷地内に立ち入るのは遠慮した。

表から敷地を眺める。ご覧の通りゴミのようなガラクタが大量に放置されている。

そのガラクタ類が川に落ちそうなくらい大量に積まれている。っていうか、これだけ不精な積み方をしていると既にいくらかは川に落ちてそうだが。今流行の「片付けられない人」なのだろうか。

不法占拠敷地の主がルーズなのはなんとなく分かったが、ともかく玄関先にちゃっかり自販機を置いているのには笑えた。確かにここならばジョギング中の人が一杯飲みそうな感じがする場所だ。よその敷地で自販機、まるで他人のふんどしで相撲をとるようなものだが。

2007年2月に大阪環状線の桜ノ宮鉄橋真下で発生した火災の現場。そこには無残に焼け焦げた車が4台程度と廃タイヤなどの残骸が転がっていた。

しかもよく見ると廃車は軽トラックだが、荷台部分に見覚えのある機械が載っている。実はこれ、ヤキイモ屋台の車だった。廃品回収業者は同時にヤキイモ屋も経営していたのか。そして、焼けては居なかったものの、ラーメン屋と思しきチャルメラ屋台もそばに置いてあった。戦後社会の在日コリアンの生きる知恵だったのか?

立場上やはりなかなか正業に就けないから自営業の道を進む者が多いと聞くが、上はパチンコ貴族から、下はヤキイモ屋台、ラーメン屋台、鉄くず集め…在日社会も十人十色。

気になるのは線路への損傷。もしも火災によって橋の土台がもろくなったりしてたら危険である。だが、電車はその日のうちに運転再開もしていて、別段問題はない模様のようだが。

さらに敷地は高架橋の下を跨いで南側に伸びている。敷地内部の通路の両サイドに平屋建ての長屋が棟続きで並んでいる。こちら側だと片方の建物しか確認できないが、どうやら住居としても使われているようだ。

古い洗濯機がそのままガラクタとなって放置されていた。思いっきり河川敷公園の一部なのだが…

建物の南側はそのまま大川のほとりになっている。そこにも大量のゴミが山積みに。自然に漂着しただけではこのような状態にならないだろうし、きっとこの家から出されたものだろう。

大都会のプライベートビーチ。ところで、不法占拠状態が続く中で彼らが立ち退かない理由なのだが、それがこの水辺にあるというのだ。ここは大阪周辺の在日コリアンの中でも、原始的なシャーマニズム信仰の場としていわば彼らの間では「聖地」なのだという。神聖な儀式を行うには、どうしても水辺が必要であると、だからここを立ち退けないというのだ。

そういえば、テレビに映っていた敷地には「龍王宮」と書かれたボロボロの看板があった。韓国の中でもかなりマイナーな民間信仰のようだが、龍王グッというシャーマニズムの儀式があるらしい。

ところが2010年末、龍王宮のあった土地は明け渡され、不法占拠で建てられた建物や残置物の数々が綺麗に撤去された。川沿いに並んでいた金属リサイクル業者のバラック群も全て取り壊され、現地にはその歴史を示すものはもう残っていない。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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