西成区・西天下茶屋銀座商店街の絶滅危惧種激渋純喫茶「マル屋」が最強過ぎる件

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ともかく店の前の張り紙からの情報が多すぎてこの時点で客は尻込みしそうになる事請け合いである。まさしく「ミミズの這ったような文字」もあって、解読に手間取る。都合により(本日)4時より営業…あとが読めません。

そして各所に突っ込みを入れたくなるアイテムの数々が。店の窓の上側にある看板には「    と喫茶」って、空白部分には何が入るのだろうか色々けったいな妄想を膨らませたくなるが、うっすら「テーキ」と書かれているのが見える。ステーキ?一部の文字が色褪せて完全に消えてしまっている。ちなみに商店街のアーケードの看板が2つある中の1つに「グリルマルヤ」の表記もある。昔は本格的な肉料理も出てきてたのか。激安価格で。

大阪市 喫茶マル屋

看板の下には対面販売を考慮して設置されたガラスケースがあり、恐らくここでは普通の喫茶店ならばコーヒー豆やケーキなどが陳列されて、窓越しに買い物したり出来たと思われるのだが、売られているものは「天プラ(うどん用)90円」と「食パン600円」…しかもパンが一斤まるごとだし…

大阪市 喫茶マル屋

さらにこのガラスが曇りすぎてよく見えない埃まみれの食品サンプル入りショーケースも見ものである。全然美味しそうに見えないとかそんな失礼な事は言ってはならない。バナナジュース100円、クリームみつ豆140円、氷金時150円というお値段異常っぷり。昭和40(1965)年くらいの物価ですかねこれって。

大阪市 喫茶マル屋

いよいよ意を決して「喫茶マル屋」の中に突入する。外観からある程度は想像していたが、中もやはり古い。店の創業当時から使ってたと思えるくらいの年代物の焙煎機が置かれていたりする。今は…使ってないんでしょうかね。店の奥には年老いていながらもしっかりと背筋を伸ばしたマスターが凛とした姿で客を出迎えてくれる。

大阪市 喫茶マル屋

壁や柱、カーテンから床、扇風機や業務用エアコン、テレビといった家電にまで部屋の隅々に年月とともに染み渡り塗り重ねられていったタバコのヤニが層を成して室内全部を飴色に染めていた。テレビでは関西らしく漫才番組などが流れていて、やはり大阪の「きっちゃてん」な趣きが濃ゆい。

大阪市 喫茶マル屋

多少エナメル掛かった、恐らく合皮と思しき年代物の椅子が並ぶ。我々の他に客が一人だけ居たが、すぐに出て行った。あとは殆ど「貸切状態」になってしまった。西成価格の激安喫茶にしては、随分贅沢な気分になってしまう。

店内の内装は激渋過ぎて素晴らしいの一言。老紳士風なマスターが普段からこの店をほぼ一人で切り盛りしているようだ。建物の造りから考えると恐らく創業当時の昭和10年からのものではない。大阪大空襲の激しい被害があったが、天下茶屋地域は地名の由来となった「天下茶屋」が焼失したものの、この付近の住宅街は奇跡的に被害を免れている。

大阪市 喫茶マル屋

マスターは腰の低い方だったが、余計な言葉は一言も発さず、いたって寡黙である。元々のメニュー表がボロボロになったので辛うじてカラーコピーしておいたものを再利用している。とてつもなく古めかしさを感じるメニュー表だ。

そんなメニュー表もまた、後から後から手書きでレパートリーが付け足されているという状態。さっき店先で見たミミズの這ったような字ではない、比較的しっかりした字で付け足されているのを見ると、どうやら家族か常連か誰かが書いたものだろう。メニューのバカ安っぷりは驚異的。まず400円を超えるメニューが存在しないのだ。しかも厳密には「綺麗な字」で肉丼他人丼500円と書いてあるのをわざわざ値段を書き換えて半額ないしそれ以下に改めているのだ。この低価格のこだわりは間違いなくマスターにあると言っていい。

決めていたオーダーを注文し、料金をマスターに「先払い」する。先払いは食い逃げ被害の多い西成ならではのシステムだろう。コーヒーにホットティーがそれぞれ160円、ちょっと出来損ない感漂うホットケーキが80円。合わせて400円です。2人で400円!安すぎる…

結局寡黙なマスターとは終始会話もなく1時間程で退店したが、今でも元気で営業しているだろうか。今後このようなスタイルの店は無くなる事はあっても、新しく出来るような事は決して無い。西成で見つけた小さな昭和遺産。なるべく大阪に寄った時にはこの「マル屋」に寄るようにしている。

マル屋

営業時間 07:00~19:30 無休?
大阪府大阪市西成区千本北2丁目1−2

大阪府大阪市西成区千本北2丁目1−2


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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