高架下の黄金郷!「中津のガード下」を見物する(2010年)

中津の街を分断する鉄道や道路などの高架橋の存在は、同時に街のシンボルでもある。梅田という都心を間近に控えながら、いわば物理的に隔てられた壁の向こうの領域として中津の街は昔ながらの風景を留めている。

JR貨物線の下は、一応人が行き来できるスペースはあるものの、桁下制限高1.4メートルという恐ろしく低いガードになっている。さすがに車も通行はできず、この下を通れるのは歩行者か自転車だけだ。

時折貨物電車が通り抜ける時に下を潜ればかなりの迫力だろうと想像できる。ちなみにここは貨物線と言う事にはなっているが、実は貨物列車よりも旅客列車が通る機会が多い。「関空特急はるか」等が新大阪駅からこの線を通って大阪駅をすっ飛ばして西九条方面に向かうものがある。

もう一ヶ所のガード下。こちらも同様に1.4メートルだ。このようにあまりに低いガード下はタクシーが通行時に頭に付けている提灯を壊してしまう事から「提灯殺し」と呼ばれる。

ちなみに東京にはJR品川駅北側に1.5メートルの「高輪橋架道橋」が存在しているが、1.4メートル未満のものは東京には無い模様。高架下マニアにとっては大阪・中津が首都みたいなものである。

中津から東側に向かうと、豊崎でJR東海道本線の線路が立ちはだかる。毎日大勢の通勤客を載せるJR京都線がこの上を走っている。中津エリアからはどこに行くにも鉄道の高架下を通らなければならない事が分かっただろう。

そして東海道本線の高架下もまんべんなく有効活用されている。

主に倉庫が多いが、一部にはリサイクルショップや居酒屋等の店舗も入っている。

再び中津駅前に戻ってきた。頭上を阪急電車が走る広大なガード下。神戸線・宝塚線・京都線の三複線である。往復6線の鉄道がそのまま淀川を渡り十三駅へ至るのだ。

そしてやはり下の部分は店舗に活用されているのが中津クオリティ。

だがさらに注目したいのが阪急電車と平行して走る国道176号の高架である。上から見ると車道と歩道が併設されていて、おまけにバス停もあり、さらにマンションの入口まで高架に合わせて作られているため、あたかも地上にいるような錯覚を覚えてしまう。

それでもよく見れば「地上」に降りる階段が横に伸びている。下に降りてみて国道176号の高架下を見るとそこには何と人が暮らしている民家がちゃっかりと存在しているのだ。

これが全国的にもレアな「国道下住宅」。橋の下で暮らすのはホームレスのオッサンくらいかと思っていたらところがどっこい、の超展開。鉄道高架下の住宅のように、終電が終われば静かになる様な事もないわけで。よく居住許可が出たものだと感心。

やけに玄関先に植木鉢が置かれていて生活感がバリバリ漂ってくる。

国道下住宅を通り過ぎた先にはポッカリと口が開いている。昼間でも陽の光が当たらない闇の奥には、またしても高架下建築がある。どうやらこの先が「高架下のエルドラド」と呼ばれる場所なのだそうだ。

高架下には意味深な落書き。実は中津の高架下住宅群も年々廃墟化が進んでいて、阪急電車側の高架下住宅は一部取り壊しが進んでいた。残っている建物もかなり老朽化が激しく、いつ無くなるやら分からない。見るなら今のうちだ。

「高架下の街」と言われる中津の街。梅田のすぐ隣にあるとは思えない、ほったらかしの街角と、所々顔を覗かせるガード下の闇。

その闇の中に目を凝らすと、同じ大阪の街にあって全く別次元の時間が流れている事に気がつく。高架下マニア必見の光景である。

中でもマニアの心を魅了して止まないと言われているのが国道176号の下に続く「高架下のエルドラド」などと呼ばれるエリアだ。自動車がすれ違える程の幅の道路が中央に走り、その両側を倉庫などの高架下建築で占められている。総延長200メートル程度と言ったところだろうか。

昼間訪れるとご覧の通りだ。コンクリート壁には旅館の屋号や貸しガレージ等と書かれたペイントが見える。見るからに相当昔に書かれたものだというのが分かるが現存しているかどうかも怪しい。

どさくさに紛れて北朝鮮がどうやらこうたら書かれた右翼団体のビラが貼られている。現在でこそ中津はしなびた下町となっているが、かつては在日コリアンが集住する地域であり、闇社会のドン・許永中が生まれ育ったという歴史のある街なのだ。

国道176号の下に入ると、オレンジ色の街灯で照らされた空間が現れる。なるほど、これが「高架下のエルドラド」の異名を持つ中津名物の光景。黄金郷というには赤味が強すぎる気がしなくもないが、それでも見事なものだ。オレンジ色の元は高速道路の街灯にも使われる、虫を寄せ付けにくいナトリウムランプである。

基本的にただの倉庫街でしかないので自転車で通り過ぎる住民が時々いる程度で生活感は皆無だ。

高架の柱には駐車禁止等と注意書きが書かれているが幾重にもチョークの跡が残っていてはっきり読む事ができない文字。

日が暮れると外からの陽の光も無くなり、いよいよオレンジ一色の奇妙な景色へと変わる。別に意図的に写真を加工した訳ではない。本当にこの色なのである。オレンジ色の光が浮かび上げるのは戦後の時代からそのまま使われているかのような倉庫街が今に残る風景だ。

倉庫の他にはガレージが置かれている事が多い。所有者の名前で国際興業と書かれているがこれは現存するタクシー会社である。

こちらにも国際興業の名前がある。その下には何故か山口県萩市をアピールするポスターが貼られている。きっと誰かの故郷なんだろう。

東京に東北・甲信越・北関東出身者が多いように、大阪には四国・中国・九州出身者が多い。その背後には市営住宅が見える。大阪に住む地方出身者の多くは高度経済成長期に大阪にやってきてはこのような市営住宅に入居し、老年に差し掛かってからは食い扶持を無くして生活保護を受けている訳だ。

ひたすらオレンジ色が続く道をまっすぐ進む。ひと気も少ない高架下空間はやはり異次元を思わせる。

梅田方向へ突き当たった所に「ピエロハーバー」という店舗がある。見た感じ「貸しスタジオ」のようだが、壁に色々と何か書かれている。そっちを見てみると…

何やら居酒屋っぽい事もしているフリースペースである事が分かる。あいにく年末年始の為営業はしてなかった。どうでもいいが「たこ焼きバーガー」の発想はさすが大阪人。炭水化物が被っても平気だぜ。

その向かいの壁には喜劇王チャールズチャップリンの顔が描かれている。意外な場所に意外なモノがあるなぁと言った印象だが、隣接する中崎町と同様に、まるで東京の中央線系のような香りが漂う文化的空間がいつの間にか出来上がっていたのだ。


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DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
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