【大正区】大阪の沖縄出身者が生み出したソウルフード・ホルモン焼を食べに「泉尾商店街」に行ってきた

大阪市大正区

大阪市ベイエリアの一角を占める「大正区」は人口の3分の1、もしくは4分の1ほどが沖縄出身者とその子孫であるとされている。戦前、工業化で発展を迎えた大阪に出稼ぎに来た沖縄県人がコミュニティを築き、それが今の今まで日本最大級のウチナータウンとして君臨する、その礎になっている。

…ということでやってきたのが大正区泉尾という場所。大正駅からやや離れているが、区内で最も栄えているのは一応この界隈という事になる。徒歩でも来られるが片道15分以上は掛かるので、通常は市バスを使って来る事になる。大正区民の足は否応なく市バスオンリーであり、ここまで来る際は“郷に入れば郷に従え”でバス利用が楽である。

泉尾の地名を知らないよその人間には十中八九「いずみお」と呼ばれるこの土地、「いずお」と読むのが正しい。大正区や隣の港区なども概ね江戸時代に埋め立てられて出来た土地だが、この一帯を開発した北村六右衛門の出身地である和泉国踞尾村(つくのむら、現在の堺市西区津久野町)から「泉」と「尾」を一字ずつ取ったものが地名の由来となっている。

大阪デフォルト的ド下町仕様「泉尾商店街」

大正駅近くからダラダラ伸びる下町風情全開のアーケード商店街を辿って抜けていくと、その最も南側に現れる一際立派なアーケード街、そこが「泉尾商店街」だ。区南部の平尾商店街(サンクス平尾)と並んで大正区の二大商店街の一つと認識している場所だが、こっちの方が駅に近いのでまあまあ栄えている。のっけからシーサーが壁に書かれたオキナニワンな居酒屋がある。

市バスしか足がない大正区にはわざわざ観光客が来る事も少ない。この泉尾商店街も完全に地元仕様100%となっており全く街が垢抜けていない。何件か土着スーパーが営業しているが、所謂チェーン店は「餃子の王将」くらいで、他はほぼ個人商店ばかり。


特に「スーパーはやし」前は買い物客の路上駐輪が商店街の通路のど真ん中にまでビッシリと連なるのがデフォである。他の地方ではこんな状態になると地主やら隣の店とかがうるさく文句を付けてきそうだが大阪では別にこのくらいは普通。こう見えて独自の秩序は保たれているのである。

大正区ではIKEAのようなイマドキな店舗も進出する一方で、こうした土着商店街では依然個人経営のよく分からない喫茶店が幅を利かせている。「コーヒー豊」さん、看板が“右から左”になっていたり「コ」の字が反転していたりと、もはや何を伝えたいのか意味不明状態。大正区ならではのゆるさでしょうか。

物凄く旧時代的な「コーヒは如何ですか」の物言いの宣伝文句も微妙にそそられる。純喫茶マニアを自称する諸君も一周回ってこういう店にも行けば面白いのに。そして喫茶店に入ってもビールが呑めるのが大正区スタイル。

そしてやはりこういう商店街ではパチンコ屋と呑み屋がたいそう繁盛するのである。工場労働者の街として発展を続けてきた大正区だが、尼崎などと同様に工業は下火となっていく時代の変化からか、区の人口は最盛期の約10万人から約6.4万人と大幅に減少を続けている。

かつては赤提灯の酒場がずらりと並び仕事帰りの労働者を迎えていたであろう、泉尾商店街内にある「富士新道通り」も、虚しく書かれた「いらっしゃいませ」のアーチ看板の先以外に目ぼしいものは見当たらなかった。

呑んだくれるしかない下町オヤジに飼われる犬もだらしがなくなっているのか商店街の中で排尿排便しまくっていて商店街の店主も随分迷惑を被っているようである。臭いだけじゃなくて、鉄筋が錆びたりしますからね、お金を掛けてアーケードを維持している側はたまったもんじゃない。

そんな泉尾商店街にある「デスカントストアー」です。ディスカウントでもなく死のカウントでもない。これが大正区民の英語力や!

ちなみにこの泉尾商店街界隈、数々の大阪&団地ネタ小説を世に送り出している芥川賞作家の柴崎友香氏の地元だそうで、御本人も大正区の市営住宅で育ってきたと語っておられる。同じ大阪ベイエリアの市営住宅出身である当方からすると同郷のよしみのようなものも感じなくはないのですけれども。ええ。

ほな、ホルモン食うてこか

泉尾商店街とその周辺には何軒もホルモン焼きを店先で売り捌く土着感満載の店が存在し、今の時代も地元民の腹を満たしている。その代表格がこちらの「ホルモンちから」。店先の鉄板の周りに既に人だかりが凄い。客が少なくなったタイミングを見計らい入店。

ここ「ちから」は西成・釜ヶ崎ドヤ街の名物店「やまき」の原点とも言われる超有名店である。大阪の沖縄出身者による豚ホルモンを使った「ホルモン焼き」を出す店では「やまき」と双璧の存在であると認識している。ホルモンとキモ、どちらも一本60円で食べたい分だけ何串でもいけます。タレのニンニクのドギツさが特徴の「やまき」と比べると若干マイルドやね。

もう一軒、泉尾商店街の北側にある「ホルモンおーちゃん」にハシゴする。こちらはいかにもな赤提灯がぶら下がっていて王道感溢れている。しっかり「沖縄」の二文字も書かれていますね。そりゃそうだ、大阪のホルモン焼きは沖縄出身者が作ったソウルフードなのだから。

店に入るとすんごく沖縄顔なアンマーがお出迎え。一人で切り盛りしていると思われる。鉄板を目の前にした席からの眺めはまさに生活感以外の何者も漂っていない。ここは「ちから」のようにメディア露出はしておらず、客は常連の爺さんしかいない。ホルモン以外も豚足や沖縄そば、泡盛各種も召し上がれる。

目の前でアンマーが豪快にホルモンを焼いてくれます。この絵面だけで泡盛三杯くらいいけそうです。この空気は大阪広しと言えども大正区でしか味わえない。

ここのホルモンは普段ミックスで串に刺さないものが出るようだが、今回は串に刺してもらい頂いた。串だと1本50円。安い…思わず泡盛が欲しくなるが、まだ何軒かハシゴするのでビールで我慢した。

さらにもう一軒、泉尾商店街の南端を出て国道43号線を挟んださらに南側にも「串よし」という店がある。アーケード街の中だけうろついていると存在を見落とす店。ゆえにマニアック具合が一段階高い気がする。

ここは先の二軒とは違い、表情は堅いがベテラン気質溢れる爺さんが一人で店を切り盛りしている。串一本60円、ホルモン、キモに加えフク、あぶら、三枚肉(120円)、豚足(300円)とメニュー表。既に先客は出来上がっていて一体何を話しているのか聞き取れない。どの店でも出くわした常連客が濃ゆいのは徹底している。

あと、泉尾商店街の中に「焼き鍋ホルモン大正」という店舗もある。ここは店先で鉄板を置いて焼くスタイルではなくごく普通の居酒屋形式であるが、店名の通り「焼き鍋ホルモン」という進化系メニューをプッシュしている。

ジンギスカン風の鍋でホルモンを焼いて食べるスタイル。ホルモン酒場巡りの締めとして、ここで焼きそばも追加して炭水化物と野菜を若干補いましょう。ああ、腹が苦しい…


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