【関西の武蔵小杉】本当に住みやすい街?「JR尼崎駅」北口の再開発地区を観察する

2018年7月、住宅ローン専門金融機関「ARUHI」なる企業が「本当に住みやすい街大賞2018in関西」というものを発表し、そのランキングの結果にネット民がにわかにざわついた。なんとその1位となったのは「JR尼崎駅周辺」だったのである。

JR尼崎駅…そこは尼崎市の中心部である阪神尼崎駅から北東に2キロ離れている場所にあり、JR神戸線に加えJR宝塚線(福知山線)、さらにそこから直通しているJR東西線が交わる駅である。JR神戸線の新快速停車駅でもあって、利用者や乗り換え客も多く、特に駅の北口は立派に再開発されている。

呑気に住みやすい街1位とか言っちゃうけど、あの事故を忘れてませんか?

だが「JR尼崎」と言ったら、こちらとしてはもっぱら「福知山線脱線事故」の負のイメージしかつきまとってこない件。この事故は2005年4月25日に発生し、死者107名という甚大な人的被害を出した、日本の鉄道史における大事故に数えられるものだ。JR尼崎駅北西1キロの位置にある尼崎市久々知三丁目にあった、電車が猛スピードで直撃したマンション「エフュージョン尼崎」も現在では一部のみがモニュメントとして残され、慰霊施設に変わってしまった。

現在も事故現場のカーブ付近を往来する電車は相当スピードを落として走っている。先頭車両にかぶりついて事故現場の現況を確かめると、この場所に時速116キロで突っ込んだという状況がいかに滅茶苦茶であったか理解できよう。そのような、絶対に風化してはならない歴史的な鉄道事故の現場がある「JR尼崎」が“本当に住みやすい街”の1位にランキングされるとは何事なのか。

そんな事故の記憶も薄れ行く中、JR尼崎駅北口の近代的な駅前風景を目の当たりにすると、ニュース記事に出ていたように「将来は関西の武蔵小杉のようになる」などと言われるのも分からなくはない。JR尼崎駅北口付近は「あまがさき緑遊新都心」と銘打った大規模再開発プロジェクトが進められ、かつての工業地帯のイメージを吹き飛ばす街並みに生まれ変わっている。表面上だけ見れば、確かにそうは思うんですけどね…

JR尼崎駅は「関西の武蔵小杉」になりえるのか

関東の尼崎こと川崎市にある武蔵小杉駅前のタワマン乱立地帯

“関東の尼崎”と勝手に位置づけている神奈川県川崎市にある「武蔵小杉」だって工業地帯からタワマンの乱立する街に生まれ変わり、首都圏の住みたい街ランキングの上位常連組に入ったが、通勤ラッシュで駅が混雑しすぎて入場制限が入ったり、タワマンだらけでビル風が凄いわ、タワマン新住民と元の住民との温度差が激しすぎて、先祖代々住んでいた土着民には気の毒にすら思える。

そんなJR尼崎駅までは、JR大阪駅から電車でわずか5分という圧倒的な近さ。さらに新大阪や京都や神戸にも電車一本でアクセス可能、しかもJR東西線直通電車もあるので、京橋などにも行ける。この交通便の良さが「関西の武蔵小杉」などとチヤホヤされる所以なのだろうか。

JR尼崎駅北口の再開発エリアは開発時期的に見ても2つに分けられる。まず駅北東側にある「アミング潮江」と呼ばれる区画が90年代末期に完成。兵庫県および尼崎市、住宅・都市整備公団(当時)の共同事業で総工費約1000億円を掛けて作られた再開発地域である。

アミング潮江は90年代に街開きしたニュータウン的佇まいの再開発地域だけあって、ちょっとだけ古臭さも感じられる。民間の分譲・賃貸マンション、UR賃貸、市営住宅などと商業施設が渾然一体となっているが、入っている店はというとパチンコ屋に「キャンドゥ」に「しまむら」…完全に庶民派仕様ですやん…

アミング潮江の一階部分は商店街にもなっているが、並んでいる店は大衆居酒屋にたこ焼き屋という「ほぼ大阪」感で統一されており、とてもじゃないですが武蔵小杉のような勘違いおセレブ様向けの店などは見当たりません。

犬連れマダム様がテラス席で優雅な昼下がりを過ごすおハイソなカフェなど一軒もないのがJR尼崎駅北口の再開発エリア。せいぜい「餃子の王将」で焼き餃子と天津飯でも食ってなさいってこった。

2007年の時点ではキューズモール側はまだまだ未着工で、見ての通りの空き地ばかりの寒々しい風景が広がっていた。ここは大正7(1918)年に当時の麒麟麦酒株式会社が「神崎工場」を置いた土地。後のキリンビール尼崎工場である。これが1996年になって神戸市北区の新工場へ移転のため閉鎖。かねてから再開発事業を行うために尼崎市による働きかけで立ち退きが決まっていたのである。

東急不動産の手掛けるキューズモールがJR尼崎のイメージアップに貢献中

後の2009年に再開発地区の新たなる核施設として開業したのが現在の「あまがさきキューズモール」。開業当初は「COCOEあまがさき緑遊新都心」という名称でキリンホールディングスが所有していたものが、後に東急不動産に土地建物が売却、2013年10月からこの名前でやっている。あべのキューズモールと同じ系列だが、東急臭を放っているのはせいぜい東急ハンズくらいで、核テナントは阪神百貨店と平和堂といずれも関西資本。

しかし首都圏における自社路線のオサレブランディングに余念のない東急様が手掛けるキューズモールが出来てしまうとさすがに負のイメージが支配する尼崎ですらキラキラムード漂うイマドキ空間に大変貌してしまうもので、商売上手と言う他ない。「阪急西宮ガーデンズ」一つで住みたい街ランキングの上位になってしまった西宮北口然り、このJR尼崎もこのキューズモール一つで「関西住みやすい街ランキング」などという浮ついた話題でその地名を挙げたくなる理由になってしまっている。

キューズモール以外には、商業施設「尼崎クロスウォーク」や隣接する「尼崎新都心病院」、「関西国際大学尼崎キャンパス」といった医療機関や大学施設まで揃っていて、これならば出張族も抵抗なく住めそうな感じに仕上がっている。

少なくとも駅前のこの一角だけを見ていても、かつての阪神工業地帯のイメージで語られる事の多い「労働者の街・尼崎」の古臭く陰鬱な雰囲気はどこにも存在しない。周辺のマンション価格も首都圏から来た転勤族の感覚では思っていた程高くない…そんな判断でこの土地に手を出してしまう気持ちも分からなくはない。

また尼崎中心部のコッテコテ下町ゾーンである阪神尼崎駅周辺からの適度な距離感も、川崎で言う川崎駅と武蔵小杉駅の距離感に通ずるものを感じる。ああ、だから「関西の武蔵小杉」なのか…よく見りゃ武蔵小杉のタワマンなんか中古でも7000万とか8000万はザラなのに、アミング潮江の中古物件なんかそれの半額以下だもんな。それでいて大阪駅から電車で5分、という利便性の良さは首都圏の街ではそうそう見つけられない。

特に教育環境に敏感な高学歴者の子育て世帯はガラの悪い土地柄では定評のある尼崎を避ける傾向が強かったはずだが、そうした世帯がこの地域に定住するようになれば、人口減少の一途を辿ってきた尼崎市にとっても一筋の光となりうるはずである。この街の将来はまだまだこれからである。今後もこの地域の変化を見守る事にしよう。


The following two tabs change content below.
DEEP案内シリーズ管理人。大阪ベイエリアの貧民窟育ち。独自のひん曲がった視点で街歩きを続けております。2008年より上京。関西に留まらず全国、海外に取材対象を薄く広く伸ばして来ました。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。
トップへ戻る
Copy Protected by Chetan's WP-Copyprotect.