大阪の風物詩としてすっかり全国区で有名になってしまった岸和田だんじり祭り。
家や電信柱が平気で破壊され、普通に死人が出るという恐ろしい祭りだと評判の、あの岸和田だんじり祭りである。
泉州の城下町、岸和田の地で300年以上の歴史を誇るだんじり祭りは、2006年からは130年ぶりに日程変更され、毎年9月第三月曜日「敬老の日」前日の土・日曜日開催になり、来場者が一気に増加している。
もっぱら有名なのが岸和田のだんじりだが、市内でも開催時期も場所も異なる。
最も多くの人がやってくるのが岸和田の22町、春木の13町のだんじり祭。
それぞれ、南海岸和田駅、春木駅で下車。大阪難波からだと特急サザンで20分少々かかる。
城下町岸和田は古い町である。
同じ大阪でも転勤組が多い北摂などとは違い、泉州や南河内一帯は古くからの地元民が多く暮らす地域だ。緊密なコミュニティの中で、町の命として大事にされる「地車」と、祭りの系譜は連綿と受け継がれる。
あ、「地車」って書いて「だんじり」と読むのですよ。
南海岸和田駅を降りて、正面の商店街は混雑がものすごいので、右側に迂回して歩いていくことにした。
すると最初に目に付いたのは沼町のだんじり。
各町ごとに置かれているだんじりは、欅造りで総重量4トンもある巨大なものでありながら、彫り込まれた装飾の緻密さも目を見張るものがある。泉州人にとって、だんじりは町の命そのものである。
だんじりには「曳きだんじり」と「担ぎだんじり」の2種類があるが、岸和田および泉州で多いのは「曳きだんじり」。だんじりの下に車輪がついていて、町の人らが手綱を引いて回るのである。さらに重心が上にあるか下にあるかで「上地車」「下地車」にタイプが分かれる。岸和田型と呼ばれるのが「下地車」。泉州地方ではこのタイプのだんじりが主流だ。
各町のだんじりは、一年に一度だけ、この3日間にわたって町を挙げての華を見せる。元は平日開催だったが、この時だけは岸和田の町民は学校も職場も一斉に休日となる。だんじりを曳出しする朝6時から灯入れ曳行が終わる夜10時まで、ハードな日程が3日間も続くのだ。
祭礼の時期には町中の至る所がこのように完全防備モードに早変わりする。だんじりの曳行で危険となる側溝には土嚢が詰まれ、だんじりがぶつかりそうな角地や電信柱のあたりは全て黄色いテープで危険を表している。
このような狭い路地でも容赦なくだんじりが走り抜けるので、通行人が増えないように要所要所に警察官が配置され「通せんぼ」をする。それでも強引に通ろうとするDQNは後を絶たないのだが。「この先に家がある」などと適当な嘘をついて通り抜けるのだ。
だんじりが突っ込むかも知れない角の家は特に危険。万が一ぶつかってしまった時の衝撃でガラスが粉々に割れてしまわないように、あらかじめ窓ガラスなどは外している。窓ガラスが外されて開けっ放しになった窓からあちこちで住人が見物している光景が見られる。この民家も、よく見ると瓦の一部が破損している。
角の仏壇屋は特に厳重にテープが巻かれている。建物の構造上、これでは全部ガラスを外すわけにもいかんので絶対にだんじりを突っ込ませる訳には行くまい。
観音様も心なしか不安な表情を浮かべているようにも見える。
そんな路地を次から次へ回ってくるだんじり。豪快に「やりまわし」を決める。
笛の音とともに、一斉に綱を持つ曳き手が全速力で路地から飛び出してくる。
とはいえ、だんじりが横転するほどの勢いはなく、だいたいみんな安全走行で通り抜けていく。
岸和田だんじりはあまりに有名になりすぎて、見物客が多すぎるのだ。どうしても本来の荒々しさは潜んでしまう。
「やりまわし」の美しさが決め手で、最も神経を使うポイントだが、今となっては何よりも安全第一なのだ。
それでも、だんじりが通り抜けるたびに大きな歓声が湧き上がる。
選挙ポスターまでご覧の通り(笑)