大津市長等三丁目に残る遊郭跡を見にやってきた我々取材班。幸いにも非戦災地区でそれほど街並みも変わっておらず目的の場所はすぐに見つける事が出来た。
柴屋町遊郭跡のメインストリートから西側に入った路地に廃墟化した妓楼が何軒も並ぶ一画がある。そこは普通の住宅街に妓楼だけが異質な形で留められていた。路地で遊ぶ地元の子供達はこの建物が何の役割を持っていたのか知る術もなかろう。
ちょうど妓楼の隣に真新しい高層マンションが立ちそびえている。それは街の時代の新旧を象徴させる光景でもある。静かに朽ちる時を待つこの妓楼はいつから廃墟となったのだろう。
2階部分。建物自体は朽ち始めてはいるものの美しい細工が施された手摺や格子窓がそのままの状態で残っている。この窓から遊女が顔を覗かせる事は二度と無い。
さらに妓楼の隣には細い水路がまるで廓の内と外を分けるかの如く流れていた。今では日常生活の中にポツンと佇む異界の建物…隣のマンションの住人はこの建物をどう思っているのだろうな。
飾りが施された丸窓も周囲の土壁が朽ちてはいるが綺麗に残っている。とりあえずこの荒れ果て具合から見ても文化財として保護されそうな見通しは全くなさそう。
建物横側を見るとこっちは手摺や外壁が一部が崩落してしまっていた。いかに立派な遊郭建築としてもそれはあくまで妓楼でしかない訳でそれゆえ建物自体も不幸な末路を辿る事になる。全国どこでもそうだけどさ。
隣のマンションの玄関口から妓楼を眺めるとこうなる。土壁はボロボロ、手摺も片側が外れたまんま。台風でも吹いたらこっちに飛んできそうだな。
さらにこれだけではない。その右側にももう一軒妓楼と思しき長屋が続いているのである。こっちは廃墟化しておらず住人の存在が伺える。棟続きの左側にあるのは居酒屋か何かだったと思われるが、赤線地帯独特の妖気が漂う。
この2軒並んだ妓楼の間に奥へ続く路地がある。アプローチとなる手前の水路を跨ぐ鉄板の橋の上をコンコン音を立てて渡ると、そこには勝手口が…妓楼自体もかなり奥行きがある。
現役時代そのままのモルタル壁には釣鐘型にくり貫かれた窓が開いていた。この窓からも遊女が顔出ししていたんでしょうかね。
さらに妓楼の側面。1階部分の窓には鉄格子がびっしり。もしかすると遊女の逃走を防止するためのものかも知れない。なんだか生々しい…
全体像はこの通りである。2階から上は壁一面がトタン波板で補強されていたが、2階部分にも3箇所の丸い小窓が通常の窓に挟まれて配されている。
しかしまだまだ終わらないんですね。路地の突き当たりからなんと人が住んでいる長屋が現れるのだ。住環境としてはあまりに渋い。
路地の曲がり角にある一軒の家。住んでるのかどうか知らんが手摺の形状から見ても目の前の妓楼とそう年代は変わらない感じ。アパートだとしてもかなりボロ過ぎる。
突き当たりの長屋民家も2階建て。1階だけ見るとオンボロアパート風味だが特筆すべきは表の妓楼と同じようにガラス窓と手摺が配された2階部分だ。何を意図してこの形状になったのだろう。
さらに曲がり角を右に入ると延々と路地が伸びている。これを見た時にはさすがに息を呑んで一瞬固まってしまいました。まるで人目を憚るかのように並ぶ長屋の家々。かつては赤線地帯だったにしてもその建物は現在も一般住居としてしっかり使われているというのが感心。
路地の上を塞ぐように置かれた2階の木製バルコニー。路地を跨いで向かい側と繋がっているんですが。この土地には数十世帯が長屋暮らしを続けていると思われるが、長屋の複雑な作りは遊郭・赤線地帯ならではの特徴を備えている。度々やってくる警察の追っ手を撹乱するためにわざと迷路状に入り組んだ路地を作るという「特徴」ですよ。
長屋には「美幸クラブ」「久富美」などと屋号が書かれた所もある。地味に小料理屋やらスナックが細々この路地で営業していたのだろうか。
ちなみに路地をそのまま突っ切ると先程の疏水商店街の一角にあったレトロモダン建築の1階部分の通路を潜って出る事が出来る。これぞ「ぬけられます」の世界である。凄いな大津の遊郭跡は。さっきから感心してばかりなんですけど。
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