大阪ベイエリアにあり木津川と尻無川に囲まれ島状になった土地に広がる「大阪市大正区」、どちらの川も大型船舶が通る運河であるため、橋を掛けることができない。そのために大正区には市営の渡船場が7つ存在する。古くは明治時代から労働者の集まる街、大正区の庶民の足として使われてきた。乗船は一切無料。
その渡船場の一つ「落合上渡船場」は、木津川を跨いで大正区千島と西成区北津守を結ぶ。ちなみにこちらは大正区側の乗り場である。最寄りにまともな鉄道の駅すらなく(厳密にはあるのだが)、地域住民の足は主に自転車となり、こうした渡船は全て自転車ごと乗船可能になっている。
大正区名物の市営渡船に乗ってみよう
今回は西成区側から乗船した。こちらも「津守村」と言うほど、都市の発展とは無縁な都会のド田舎地帯であり、生ける廃墟のような佇まいの南海電鉄汐見橋線(高野線)木津川駅というのが一応近くにあるが、汐見橋線は電車の本数も少なく実用的ではない。
ちょうど対岸の大正区側に停まっている渡船が見える。客が乗り込んでいる最中なので、ちょうどこちらにやってくるタイミングだ。その奥に見える古臭く巨大な集合住宅は、大正区が誇るマンモスUR団地「千島団地」である。
主に大正区側に滅法多い市営渡船場の利用者の多くは自転車ごと乗り込む通勤通学者である。大正・西成両区にヤンキー公立高校がいくつもあるため、時間帯によっては学生だらけになる。場所柄か時折、人前で平然とタバコをふかすような高校生も見かけるが、ここは大阪なのでしょうがない。
大阪市営渡船の運転業務はこれまで全て大阪市建設局の正規職員が行っていて、船員は全員公務員(現業職)という業態だったが、あれこれ大人の事情があって、市内8ヶ所ある渡船場のうちなぜか落合上渡船場のみ2008年5月1日から民間委託されている。
船が動き出すと対岸までものの一分やそこらで着いてしまう。ここ木津川を跨ぐ市営渡船は上流部から数えて落合上、落合下、千本松、木津川の四ヶ所があるが、いずれも廃止される見込みはない。先程まで居た桟橋を見ると乗り遅れた客が残念そうにこちらを見つめている。しかし「まあ、ええか」と15分の待ち時間を気にせず過ごすものである。ある意味、非常に都会的ではない日常風景だ。
木津川上流部には大阪府の「木津川水門」という珍しいアーチ型水門がデデーンとその姿を晒している。大正区と港区の間にある尻無川水門とは兄弟関係と言えよう。高波や津波が来た時にはこのアーチが水面に90度傾いて落ちる。このタイプの水門は当方の知る限りでは大阪ベイエリアにしかない。市内の大部分が低地で占められる大阪は治水対策一点に関してだけは申し分ないくらいに万全である。
木津川水門のすぐ左側にも「三軒家水門」という別の水門が鎮座している。これは「難波島」とも呼ばれる千島三丁目の東側と大正区本体側に跨る水門だ。東京で言うと東葛西の妙見島に近いイメージだが、現在は島の北側が埋め立てられて地続きになっている。
十年前に見られた木津川岸壁沿いのホームレス村
一昔前、この落合上渡船場から船に乗ると木津川水門の先、国道43号・阪神西大阪線「木津川大橋」付近にかけての岸壁沿いに夥しい数のホームレスの小屋が一直線に並んでいた、非常に香ばしい光景が見られた。
2007年当時の木津川沿いのホームレス村。かなりの「人口」があった事を物語っているが、大阪市もホームレス向けシェルターだけに限らず福祉住宅を斡旋するなどして、こうした小屋掛けするホームレスの姿もかなり減っている。もはや過去の風景だ。
木津川大橋の上からもホームレス村の様子を眺める事ができた。見ての通りの壮絶な光景。この時代は南海汐見橋線の線路沿いとか、淀川の十三大橋あたりとか、大阪城公園の中とか、そこらじゅうに不法占拠して住み着いているオッチャン達の姿が当たり前になっていて、逆に何とも思わなかったものだが…
それでいてホームレスの小屋は台風の襲来にも耐えられるよう知恵を絞って作られた本格DIY建築となっていて、これはこれで見応えのあるものだった。東京では未だに多摩川の六郷橋あたりに行けば見られるが、大阪では随分ホームレス対策が進んだのか、ここまでの場所は見られない。
大阪ベイエリアの工業地帯を眺めながらの超ショートクルーズ、というべき落合上渡船場。対岸の大正区千島に出れば市バス乗り場も近いし、土地勘が無ければ大正区側の方が来やすいはずだ。
大正区側の乗り場から木津川水門側を眺める。晴れた日には運河の上に広がる、抜けるような青空が拝める。電車に乗っているだけの生活だと、決して見られる事のない大阪の都市の風景。
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