日本最大の労働者の街・釜ヶ崎のど真ん中を走る路面電車、阪堺電気軌道阪堺線。
通称「チンチン電車」と呼ばれているものだが、全国的にも消えつつある路面電車が今でも大阪市内を現役で走り続けている。大阪の中でも「超」をつけてもいい下町、ディープサウス大阪の地域の足である。
その始発駅である阪堺線恵美須町駅は、地下鉄堺筋線の駅を上がった恵美須町交差点の南西にある。
ご覧の通り、時代から取り残されたような凄まじいテンションの駅舎である。
15年ほど昔の話、この駅の終電後の様子を見たことがあるのだが、ホームが路上生活者のベッドと化すのだ。数十人ほどのホームレスが並んで寝ている姿を夜更けの薄暗い町で見て、背筋が凍った思いをしたことがある。場所柄だろうが、キッツイ風景である。
今ではどうなのかわからんが。
ちなみに阪堺電車だが、ここ恵美須町駅から堺市の浜寺駅前駅までを走る「阪堺線」、天王寺駅前駅から阪堺線の住吉駅を通り住吉公園駅までを走る「上町線」の2路線が運行中だ。上町線は住吉から阪堺線に乗り入れ我孫子道駅までを走る電車が走っている。
大阪市内、堺市内での移動は一律200円だが、大阪・堺をまたぐ場合、もしくは住吉・我孫子前で乗り換える場合は290円が必要となる。
昔は今池駅から分岐する「南海平野線」が平野駅まで延びていたのだが、それは昭和55(1980)年の地下鉄谷町線の延伸開業時に廃止されてしまった。運営の阪堺電気軌道は南海電気鉄道の100%子会社である。
チンチン電車が走る線路の錆色も、歴史を感じさせる。南へ行くと、西成釜ヶ崎だ。
だが既にこの辺りも労働者街の一角を形成していて、釜ヶ崎同様、簡易宿舎「ドヤ」と、それとよく似た敷金・保証人不要の労働者用マンションが数多く立ち並んでいる。特にこの辺りは大規模なマンションの姿が目立つ。
やっぱり有名なのが「大隅」と書かれたマンションの数々であろう。事前の権利金や保証人は一切必要ない。布団や家財道具も用意されており、身一つで転がり込めるようなマンションだ。賃貸アパートというよりは形式の違う「ドヤ」という感覚に近いかもしれない。
労働者や生活保護受給者である高齢者など、単身者に限らず、女性や家族での入居も出来る所がある。例えば家庭内暴力などが原因で子供連れで夜逃げしてきた女性が仮住まいとして入居してきたりもするだろう。
やはり見た目にはアレなエリアだが、アパートの入口には管理人が常駐しており、治安面でもさほど心配はない。深夜早朝は知らんが。
新今宮駅のホームからもよく見える「権利・保証ナシ」と書かれた大隅アパートの看板。住む人に権利も保証もないという意味ではない(笑)
次は南霞町駅。あの「西成暴動」で駅舎が暴徒に丸焼きにされ、後に作られた仮の駅舎がそのまま使われているという、輝かしい伝説を持つ駅である。駅と隣接する、太子交差点の角に立つ駅舎のように見えるビルは、関係のない別のビルだ。元はパチンコ屋だったが、潰れてしまった跡は廃墟のまま、夜はホームレスのねぐらと化している。
こんなおっかない場所に建っている駅だが、意外に「普通の人」の利用者が多い。
JR新今宮駅のまん前にある駅で、帝塚山方面に住む人々の通勤の足になっているからである。
この駅のある部分だけなぜか線路に砂利がひかれていないのだが、万が一の暴動発生時に暴徒が砂利の石を拾い上げて投石してしまう恐れがあるためだという話だ。一度焼き討ちにあった駅だけに、もう痛い目には遭いたくないですねえ。
あの向こうが今池駅だが、散策はまた次回以降だ。ここから南側はうかつにカメラを出せない危険地帯になるので、正直行くのも怖い。
身体中真っ黒に汚れたホームレスの姿を見て、もはや西成の風景の一部としか思えなくなるのであろうか。容赦ないハードボイルドな日常が転がる街。そこには様々な人が生きる。
夕方5時を過ぎると、新今宮駅から大勢の通勤客が流れ込んでくる。労働者だけではなく老若男女様々な市民がこの道を通り抜ける。
世界陸上開催中で取材に来ていたレポーターと釜ヶ崎で活動するNPO団体の人との話をテレビで聞いていた。
「釜ヶ崎は日本の縮図である」
そう、ここにある日常は特異な姿ではない。
もしかしたら、10年後の日本の各都市で見ることになるかも知れない風景なのだ。その予兆は、ネットカフェ難民や若年ホームレス、格差社会、役人の不始末で増大する借金、その裏で十分に行われない福祉施策などなど、様々な形になって現れている。
これ以上堕ちたくなければ、大阪市と国のやることから、目を離すな。