地下鉄阿波座駅で降りる。
この周辺は、今でこそすっかりひと気のない街になってしまっているが明治時代までには大阪経済の中心的役割を果たしてきた場所で、外国人居留地だった川口居留地や、大阪市中央卸売市場の前身だった「雑喉場の魚市」、そして廃藩置県により初めて大阪府が誕生した時に府庁がここに建設された。
かつての魚市場の名前を残す「雑喉場橋」。”雑喉場”は「ざこば」と読むんですが、もうどう考えても桂ざこば師匠しか思いつきません。
阿波座駅のまん前の江之子島地区は、1874年に初めて大阪府庁が建てられた場所であり「大阪府政発祥の地」なのだが、府庁は1926年に現在の大手前に移転した。
その後も、土地は長らく府有地として使われてきた。現在は和泉市に移転した「大阪府立産業技術総合研究所」が1996年まであったが、それ以降は遊休地として使われていない。
1.7ヘクタールもの駅前の一等地という価値を持つ土地を、財政難に喘いでいるはずの大阪府は「由緒ある府政発祥の地だから簡単には手放せない」と言い逃れをして長い間ほったらかしにしていたのだ。由緒ある土地を粗末にしてきた者は誰なのか。
総合研究所の建物は荒れるに任せ、2001年ごろには敷地への家電の不法投棄が相次ぎ、中にはホームレスが住みついたり、近所のド不良の溜まり場となっていたり、悲惨を極めていた。
防犯対策のために近隣住民が自宅のインターフォンをモニター付きのものに変えた、など、住民生活への影響も出ている。
そして、よりによって府有地の一画は50年以上前からある個人に「不法占拠」されてしまっている。
「戦後のドサクサで」勝手に住み着いた人間が50年間不法占拠していた事実も大阪府は一切関知していなかった。逆に10年ほど前に住民側が不法占拠状態のままではならないと自主的に大阪府に相談に申し出たのだが、大阪府側は事実上黙認し続けていたという。(→詳細)
ようやく今になって江之子島の土地は民間に売却するか、府立現代美術センターを移転させようかという提言が成されている模様だが…問題の不法占拠の土地はそのまま売却、売った先の業者に土地問題の解決を委ねる方針だそうで。そんな土地を誰が買うねんな。
旧「府立産業技術総合研究所」は、府庁移転後の1929年に前身の「大阪府工業奨励館」が創設された。
現存する4階建ての「旧館」は1938年(昭和13年)に建築されている。
昨今はモダン建築ブームなのに、価値のある建物が使われず放置されたままなんて、ああもったいない。
現在の府政がケンチャナヨ体質全開なのは大阪凋落の悲劇の一つでもある。
肝心の敷地は、工事のためだろうか全域が鉄柵で覆われているが、派手に重機が動いていることもなく、一体いつになったら解体工事をやるのかわからん状態。
せっかくのレトロ建築「旧館」を壊すのは非常に惜しい気もするが…
どうやら行政はこの土地を「芸術拠点」にしていきたいようで、江之子島から木津川を挟んだ向かいの川口地区にある古い市営住宅を改築し、若い芸術家に安い家賃で住んでもらおうという計画が進んでいる。
川口と言えば明治時代には、神戸のように外国人居留地があり(川口居留地)、貿易拠点として栄えた地域でもある。川底が浅く土砂が堆積しやすいために大型船舶が入港できず使いづらいと不評だったため港湾機能が神戸港に移るやいなや川口は急速に廃れた。現在はその面影は「川口基督教会」などの僅かな建築物を残すのみである。
さて、問題の不法占拠の民家群は府有地の北側にある。
現在は民家一世帯のみがあるが、他は退去済みなのかして全て廃屋と化している。
その中の一軒が何故か不動産屋だった。不法占拠地区で堂々と不動産屋やってたんですね。凄いな、大阪という街は。
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