これはリアル和歌山ブルースか!和歌山市に残る末期的状態の赤線地帯「天王新地」を往く

和歌山市

戦前の遊郭の流れを汲み平成の世に生き続ける関西独特の「新地」、とりわけ大阪の飛田や松島は有名どころだが、関西の陸の孤島と言われる紀州和歌山にも天王新地という場所がある。ここも戦前から存在していたのは間違いなく、現在では殆どが廃業しつつもまだ辛うじて数える程の店が開いている。

和歌山市 紀伊中ノ島

天王新地の位置はJR阪和線の紀伊中ノ島駅もしくはJR紀勢本線紀和駅近く、地蔵の辻交差点を目印に国道24号(大和街道)を西に入ったところ。なんと「天王新地」というそのものズバリな名前のバス停がある。和歌山駅・市駅・ぶらくり丁からではいずれも徒歩20分程度掛かる。こんな繁華街からも外れた場所によくそんな場所が生き残っているものだ。

和歌山市 紀伊中ノ島

関西に数ある新地の中では存在感も薄く、目印になるものも乏しいので事前に調べておかないと車で通りがかっても気付かず通りすぎてしまうだろう。最寄り駅の一つであるJR紀和駅は旧和歌山駅で、戦後に現在の和歌山駅に座を譲るまでの一時期は和歌山の玄関口でもあり、戦前から古い市街地が形成されていた。その頃からの盛り場が今に残っているのだ。

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バス停近くの国道24号沿いに「天王料理組合」の文字が書かれた古ぼけたアーチが残っていた。これが天王新地の入口だ。料理組合と便宜的に書いているのは大阪の新地と共通している訳ですね。しかしこのアーチ看板も我々の訪問後には撤去され、最寄りのバス停も2013年に「天王新地」から「地蔵の辻」に名称変更された。

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アーチを潜った先は土手下の坂になっていてその奥にかつての盛り場の痕跡が広がっているのだ。入口付近は既に建て替えられて普通の民家に変わってしまった部分もある。ギラギラとネオンサインがけたたましい大阪の飛田新地を見た後では信じられない寂れっぷりだ。やっぱり和歌山ですからね、ここ…

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地蔵の辻交差点の南西側一帯、現在も確かに天王新地の成れの果てである怪しい一画が残っていた。一部は商売を辞めてしまって普通の住宅へ建て替えられた所もあったりするが、打ち捨てられた古い民家が非常に多く、まだまだ現役時代の面影を想像させるに十分な貫禄を誇っていた。

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そんな元遊郭の路地に勇気を出して足を踏み入れてみる。天王新地の店が並んでいる路地は国道24号に面してUの字型になっており、奥行きは50メートルもなくかなり小規模なものとなっている。確かに「料理屋」の看板が古い民家に掛かっているのだが、どう見ても営業している様子もない。

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…なんだ、もう現役じゃなくなったのか…と一瞬思いそうになったが甘かった。「料理屋」は玄関も閉まっていて商売やめましたと言わんばかりの素っ気のなさだが、その隣にある部屋の窓越しに中のおばちゃん達が我々訪問者を眺めているのである。まだまだ現役なのだ。

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「料理いわき」と掲げられた看板。同じいわきでも枚方・交野の大阪11区を地盤にされていた井脇ノブ子元衆議院議員は「やる気!元気!いわき!ガハハ」ですが、こちらの「いわき」さんはやる気ナッシングであります。

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もう一軒「なみじ」と看板を掲げるこちらの建物。見たところこうした現役の「料理屋」は天王新地に3ないし4軒残っているようだ。大阪で見るような「玄関開けっ放し」でもなく、玄関に面した隣の小部屋で窓の格子越しにじっと訪問者を監視しながら陰気臭く待機している。昼間なので気が付きにくいが、小部屋はいかにもな赤い照明が付いていた。

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この「料理屋」が立ち並ぶ長屋自体も恐らく天王新地発足当時からある戦前からのボロ長屋なのであろう。あばら屋もいいところで、「いわき」「なみじ」の間の部分はまるごと廃屋と化している。こうなってまでもなお生き残っていた色街だったとは…。

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そんな廃墟同然の「料理屋」の建物の間に驚くような陰気臭い抜け道があった。これ以上ないくらいのリアルお化け屋敷状態である。かつてはこの抜け道にも春をひさぐ酌婦の甘い声が響いていたのだろうかと思うとこの世に居る気分がしない。あとは「ぬけられます」の看板があれば完璧だ。

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抜け道を辿ると建物の裏側に出てきてしまった。サビサビのトタン壁がこれまた退廃的なムードを増幅させており、紀の川の土手に斜めに傾いたバラックで営業している「中華そばまる豊」もビックリの佇まい。だがその裏手は何という事もない、普通の駐車場になっていた。

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しかし、2015年秋の再訪時、片側の「いわき」「なみじ」があった長屋はすっかり取り壊され、跡地は未舗装の平面駐車場に変わっていたのである。色街の面影もこうして徐々に無くなっていくもんなんですね。

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一方で、その向かいにごっそり空き地となって裏側の料亭(廃墟含む)が丸見えになったこちらの土地はそのまんま。やはりこういうややこしい歴史を抱えた土地はなかなか買い手が付かないのであろう。車があればそこそこ便利な土地だと思うのですが。

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そんな路地の突き当たりを右に折れると右手側に見える「○村」と屋号の掛かったお宅。あばら屋ばかりが目立つ末期的な新地ながらここだけは比較的まともな外観で、前を通りがかったらヤンキー風味な若い姉ちゃんが猫を抱いて座っている。てっきり幽霊しか居ないと思ってたんですが…っていうか、マジですか。

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2015年秋の日本国の風景とは思えないリアル和歌山ブルース状態な色街の片隅でヤンキー姉さんの視線を痛々しく感じつつ西隣に並行する路地へ入る。ここは廃れた感じはしないが、生活感もある古ぼけた住宅地といった雰囲気だ。

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しかしここも二階建ての長屋の軒下には丸い照明がぶら下がっていたり、一部の家屋の窓は板が打ち付けられて見るからに廃屋ですとアピールしている。天王新地の存在、そして街の役割はもう9割9分済んでいる、終わった街なのかも知れない。だが未だに誰かに必要とされる限りは細々と生き続ける場所なのである。



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