【阪急沿線】北摂の優等生タウン「池田」のお上品な街並みを観察する【文教地区】

池田市

京阪神の都市交通網を網羅する鉄道路線の中で比較的お上品とされている阪急沿線。その中でも「阪急宝塚線」で梅田から郊外に向かうと、途中の豊中あたりまでは大阪市内と大差ないド下町エリアが続くが、その先はまるで別世界、本当に同じ大阪なのかと目を疑うばかりの街が存在している。その一つが北摂屈指の文教地区として名高い「池田市」である。

池田市と言えば日本が世界に誇るカップ麺メーカー「日清食品」創業の地でもあるが、他にもダイハツ自動車の本社があったり、また全国屈指の植木の産地としても知られる一方で、大阪教育大学附属池田小・中・高等学校をはじめ名門校が市内にあったり、石橋駅最寄りの大阪大学豊中キャンパスにも近いなど、文教地区としての性質も強い。古くから城下町および商業都市としても勃興し、北摂の中では随分と由緒のある街の一つ、という立ち位置である。今回、そんな街の玄関口である「池田駅」の周辺をうろついてみる事にする。

駅構内の広告から既に見ている世界が違う池田市民

梅田から阪急宝塚線の急行電車に揺られて18分で池田駅のホームに辿り着く事ができる。既に駅のホームからして全く雰囲気が違う。いつもの大阪だとせいぜいパチンコ屋の下品な広告が並ぶところが、この街ではのっけから東大・京大・国公立医大受験専門のエリート向け学習塾「鉄緑会」の広告なんぞが張り出されて、圧倒的な格の違いを見せつけているのだ。そう、池田市民は生まれた時から見ている世界が違うのである。

駅構内に張り出されている「美しいまち池田にしよう」と書かれた啓発看板も、そんな教育熱の高い池田市民の規範意識の現れなのだろうか。この街は「いつもの大阪」と呼べる雑多で品のない、ゴミや煙草の吸殻が散らかり、街中に小汚い落書きが放置されたような風景とはまず無縁なのである。

そんな池田駅前には関西では多数展開している進学塾「類塾」の看板が駅前のパチンコ屋よりも目立った格好でそびえていて、文教地区っぷりを容赦なくアピールしている。この学習塾は関西限定で大阪府と奈良県にしかないが、本業は類設計室という大手の設計事務所をやっている傍らでやたらと宗教色の強い掲示板サイトを運営している事で昔から有名だ。


池田のメインストリート「栄町商店街」と能勢街道

池田駅前から北側に向けて伸びるアーケード街「栄町商店街」(サカエマチ1番街・2番街)が一応ながら池田市における古くからのメインストリートである。ここを抜けていくと池田市の旧市街地や池田城址、市民の憩いの場である五月山公園などに出られる。

栄町商店街自体は昭和の古ぼけた佇まいの商店街、以上の印象がなく、単に通り過ぎただけで終わってしまったが、大阪の下町にあるような下品なパチンコ屋だとか、ドカチン臭漂わせる定食屋や惣菜屋の類が全然見当たらない。隣の石橋駅前の商店街みたいなゴチャゴチャ感もなく、北摂のお上品エリアだとやはりそのへんの勝手も違うようだ。

そんな栄町商店街には五月山動物園(五月山公園内)で飼育されているウォンバットをモチーフにした、どことなく80年代ファンシー感漂うセンスのキャラクターの絵があちこちに張り出されている。

閉まった店舗のシャッターにまでウォンバットがいる。池田市が誇る「五月山動物園」はオーストラリア・タスマニア島原産の希少動物であるウォンバットを日本国内で飼育している数少ない動物園で、なおかつ国内で初めてその繁殖に成功している。全国に6頭いるうちの半分、3頭が五月山動物園にいるともあれば、それだけで強力な観光資源なのである。

アーケード街は途中で道路を挟んだ部分で切れていて、そこから「1番街」と「2番街」に分かれているが、2番街の方もこれと言ってツッコミどころのない「おっとりした」雰囲気の商店街ですので、通り抜けるだけになりそうですね…

…と思ったんですが、どこかで見た事のあるトリコロール旗をでかでかと掲げる店があったりして、やっぱりここも大阪の一部なんだなと思わずにはいられない。これはもう立派な池田市民(ダブルミーニングです)である。

栄町商店街のアーケードを抜けた先に東西に横切る道がかつての「能勢街道」で、池田市における本来の中心部として栄えている一角が現れる。地名も「栄本町」というだけあって、「旧加島銀行池田支店」といった大正時代に建てられた歴史建築もあって由緒の正しさが半端ない。

あと能勢街道沿いには大阪・通天閣名物「ビリケンさん」の像も鎮座している。明治末期に大阪の繊維会社・神田屋田村商店(現・田村駒株式会社)が商標登録して販促用キャラに使っていたのが始まりとされているが、この繊維会社の創業者が池田市出身という事でビリケン像が置かれている。池田は由緒正しい商人の街でもあるのだ。

埼玉・朝霞市女子中学生監禁事件の寺内被告の地元です

徹頭徹尾お上品ぶりを見せる由緒正しい商人の街・池田であるが、お上品な街だというだけならわざわざ我々がここに来る事はない訳である。2014年に埼玉県朝霞市の女子中学生を誘拐して2年間に及ぶ拉致監禁生活を続けた末に逮捕された寺内樺風被告はこの池田市の、まさしくこの街中で小中高の学生時代を過ごしていて、その街の様子がどうしても見たかったのだ。

実際に被告が育った場所がどのような環境なのかと想像を巡らせながら来たが、ここはただでさえ文教地区で教育熱の高い池田市の中でも特に由緒のある「綾羽」という地区の中にあり、見ての通り江戸時代から建つ立派な蔵屋敷がずらずら並ぶような、それはそれはたいそうな街並みが広がっている。

池田駅から栄町商店街、さらに五月山公園の間を直線で行き来する最短ルート上にこの蔵造りの街並みが連なる。江戸時代、1700年代中頃の建築とされる国登録有形文化財「稲束家住宅」といった豪勢な建物を横目に歩くとその先には…

防犯グッズ通信販売会社の事務所を兼ねた寺内被告の自宅がある。実父の経営する防犯グッズ会社から得た知識を駆使して、用意周到な計画の上で女子中学生を言葉巧みに洗脳し、あわよくば一生涯監禁生活を続けるという「完全犯罪」を遂げようとした男…やろうとした事はひたすら愚かでしかないが、相当な知能犯である事には違いない。

今は実家から遠く離れた埼玉の拘置所で暮らし、法廷では「今なら、からあげクン1個増量!」と意味不明な供述を続けているという寺内被告の家の前には、皮肉にも「罪を悔い改めよ 聖書」とメッセージが刻まれた真新しいキリスト看板が貼り付けられていた。

附属池田小事件の宅間守もご近所さんでした

寺内被告の実家から歩いて僅か3~4分の場所にある某マンション付近。ここにもかつて日本のお茶の間を震撼させた事件の犯人が住んでいた。その犯人とは、2001年に起きた「附属池田小事件」で小学生8人を刺殺した宅間守(2004年死刑執行)である。宅間の出身は兵庫県伊丹市だが、池田からは5キロ程度しか離れておらず、隣町のようなものである。

兎角、池田市という土地は教育熱が高く住民のエリート志向が強い街で、そこで育った人間が落ちこぼれると精神をこじらせて監禁事件を起こしたり、たまたま池田に住んでいた宅間のように「エリートの卵をブスブスと」刺す欲求に駆られたりするのだろうか。やはり大阪で暮らすという事は、どんな場所においても常に「地雷原」が隣り合っているものと頭の片隅に入れておくべきなのか。


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